2008年7月11日にiPhone 3Gが発売されてから,ケータイ業界は大きく変わった。端末メーカーが魅力的な端末を作るために主導権を握ろうとする動きを始めたり,iPhone向けアプリケーションで大成功を収める個人プログラマが登場したり,iPhoneを活用することによって大学や企業が新しい取り組みを始めたりしている。

 このようにケータイの明日を知るには,先行する「iPhoneの革命」に学ぶべきことが数多くある。iPhoneの出荷台数は,世界で2009年4月に2100万台に達した。ソフトバンクモバイルは日本での出荷台数を公表していないが,関係者の話を総合すると2009年2月から始めた0円キャンペーン(写真1)が功を奏し,3月時点で60万台を超えた模様だ。またiPhoneは,6月に次期OSであるiPhone 3.0が発表され,次のステージへ入ろうとしている。

写真1●iPhoneの0円キャンペーン
写真1●iPhoneの0円キャンペーン
ソフトバンクモバイルが2009年2月に開始。iPhone価格が実質0円になったことで,iPhoneの普及が加速した。
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 そこでこの6月から,「iPhoneショック2」と題した連載で,iPhoneがケータイや,ケータイ業界,あるいは社会にもたらした変化を詳しく解説していきたい。連載に先駆けて今回は,iPhoneが生み出した動きを簡単に紹介する。

メーカー主導のケータイ端末づくり

 ものづくりの基本は本来,エンドユーザーが欲しがるものをメーカーが作るという形のはずだ。しかし日本の携帯電話業界では,メーカーはエンドユーザーよりもキャリアを重視するようなものづくりを進めていた。ケータイ端末をエンドユーザーに販売するのはキャリアであり,メーカーが端末を販売する相手がキャリアだという構図が,原因の一つだろう。キャリア主導でメーカーが開発を進めてきた結果,同じメーカーでもキャリアごとにまったく別の端末を開発するのが常識だった。

 この構図をがらりと変えたのが,米アップルのiPhoneだ。iPhoneは徹底的にエンドユーザーを喜ばせる端末を追及しており,そのヒットを予感した世界中のキャリアがiPhoneの販売権を獲得するために必死にアップルに取り入ろうとした。メーカーであるアップルが主導権を握り,アップルはキャリアを問わずに世界で同じ端末を販売した。アップルほど主導権はないものの,海外で活躍する端末メーカーは,同じ端末を複数のキャリアに提供している。例えば台湾のHTCは,NTTドコモ,ソフトバンクモバイル,イーモバイルで同じ端末を販売してきた。

 こうしたメーカー主導の動きと連動するように,日本メーカーも新しい動きを始めた。まず2008年に,シャープが「元気なケータイ」という驚くべきCMキャンペーンを展開。同社が開発するNTTドコモ向け端末,au向け端末,ソフトバンクモバイル向け端末のそれぞれのCMで,「元気なケータイ,シャープ」という同じCMソングを採用したのだ。このCMからは,「まずはシャープの中でほしい端末を選び,そこからキャリアを選んでください」という意図が伺える。

 5月19日に開催されたNTTドコモとソフトバンクモバイルの新端末の発表会では,さらに一歩前進した。両発表会で登場したNECやパナソニック モバイルコミュニケーションズの一部の機種は,ほぼ同じだったのである(写真2)。

写真2●NTTドコモのN-08Aとソフトバンクモバイルの930N
写真2●NTTドコモのN-08Aとソフトバンクモバイルの930N
どちらもNEC製で,ほぼ同じ端末。

 もちろん,2008年からケータイ端末の買い替えペースが落ち,メーカーが苦境に追い込まれたうえに,不況が追い打ちをかけているという事情もある。もはや端末メーカーは,キャリアごとに一から端末を開発する体力がなくなってきている。