ITアナリスト 長橋賢吾

 ITサービス企業の業績はいつボトムアウトする(底を打つ)のだろうか。この疑問に答えるべく,本稿では主要ITサービス企業12社の2009年3月期決算を分析した。富士通,NEC,日立製作所,NTTデータ,野村総合研究所,日本ユニシス,伊藤忠テクノソリューションズ,ITホールディングス,新日鉄ソリューションズ,住商情報システム,オービック,ネットワンシステムズの業績や発表内容から,今年度(2010年3月期)以降の業績推移を予測する。

2009年3月期の主要12社は「減収増益」

 2009年4月下旬から5月中旬にかけて,多数の上場ITサービス企業が決算を発表したが,その多くは減収減益であった。主要12社の発表値の合計は,()に示すように売上高は7兆4347億円(前年度比1.6%減),営業利益5906億円(同4.4%増)の「減収増益」となった。

表●主要ITサービス企業12社の業績推移(金額は百万円単位)
表●主要ITサービス企業12社の業績推移(金額は百万円単位)
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 これをどう見るかだが,筆者としては,自動車や電機などの製造業の多くが赤字に陥る中で,増益を維持した点に注目している。増益となった要因は主に2つ考えられる。まず,ITサービス企業の業績が「レイト・シクリカル」(景気遅行性)であること。次に顧客層が多角化していることである。

 2008年9月の「リーマンショック」以降,製造業では急激に落ち込む需要と供給とのミスマッチが生じた。一方のITサービス企業はどうか。一般に企業のIT投資の60%以上はシステムの保守やライセンス更新といった,既存システムの維持に使われると言われており,足下の需要減が直ちにITサービス企業の業績に反映されるわけではない。また,IT投資額は年間予算として決定されることが多い。おそらく,ITサービス企業の業績に景気悪化の影響が現れるのは次の年度,すなわち今年度からとみられる。

 顧客層の多角化については,ソフトウエアの受託開発を手掛けるソランの千年正樹社長が,同社の2009年3月期決算説明会でこんな発言をしている。「バブルが崩壊した92年~93年当時は,主要顧客への依存度が高かったこともあり,たとえば200人の技術者のうち100人が戻されたこともあった。この経験を踏まえて,当社は事業を多角的に展開してきた。今は,バブル崩壊時に似ているが,当時よりも経営が強化されているので,これからが楽しみだ」。

 経済産業省が実施している「特定サービス産業動態統計調査」の「情報サービス」業種の売上高推移を,バブル崩壊時と今回とで比較してみよう。バブル崩壊で本格的に景気が冷え込んだ93年の「情報サービス」の売上高合計は約3兆2100億円であり,92年から8.4%も減少した。これに対し,2008年の減少幅は0.17%と小幅である。

 落ち込みが小幅だった要因の1つとして,バブル崩壊を経験したITサービス企業各社が,ソランのように顧客業種の分散を進めたことがあるのではないか。

 

楽観的過ぎる12社の業績予想

 主要12社の業績予想を合計すると,2010年3月期の売上高は前年度比0.2%増,同じく営業利益は同10.5%減となる。つまり「増収減益」の計画である。だが筆者は,売上高は前年度比3.1%減,営業利益は13.5%減と,各社の予想よりもかなり厳しい数字を予想している。前年度それほど落ち込まなかったのは,あくまでもITサービス業界の景気遅行性ゆえである。今年度はいよいよ景気悪化の影響が本格的に現れ,業績は悪化するとみている。

 ITアナリストである筆者は日頃からこうした試算を数多く行っている。過去のその企業の業種別(顧客別)およびセグメント(製品販売,システム開発,システム保守など)別の売上高の推移を基に,将来の売上高や営業利益を予想するのだが,この時にセグメント別売上高のバランスをどうとるかがポイントになる。詳細は省くが,基本的な考え方を説明しよう。

 製品販売やシステム開発といったセグメントは,景気動向の影響を受けやすいため売上高予想が難しい。だがシステム保守は比較的売り上げの変動が小さく,予想が立てやすい。ただし、全体に占めるシステム保守の売上比率は顧客の業種,あるいは顧客企業によって異なる。そこで業種や主要顧客ごとに各セグメントの売上高を予想し,これを積み上げていく。そこから材料費,人件費,外注費,減価償却費などの売上原価と,広告宣伝費などの販管費を差し引いたものが予想営業利益となる。

 さて,筆者の試算結果は「売上高はほぼ横ばい,営業利益は大幅な減少」というものである。大幅な営業減益の理由として考えられることは2つある。1つめは,ITサービス売上高の業種別構成の変化である。2つめはSEなどの稼働率の低下である。筆者は,この2点が今年度ITサービス企業の業績がボトムアウトするかどうかを判断する上でのキー・ポイントになるとみている。