米IP Devices代表
岸本 善一

 データセンターにおいて,IT機器の次に電力を消費するのは,全体の約3分の1を占める冷却装置である(図1)。第10回と第11回は,データセンターの冷却について解説する。

図1●データセンター内での電力消費の配分
図1●データセンター内での電力消費の配分

 最近公開されたGreen Gridのホワイトペーパーによれば,配電に関するロスは飛躍的に軽減されている。これによってPUE(電力使用効率=データセンター全体の電力消費量/IT機器による電力消費量)に影響する要素の内最大の課題は冷却である。逆に言えば,冷却に必要な電力を削減すれば,PUEの値を小さくできる。

 米国でコーロケーションのデータセンターを運営するAdvanced Data Centerは,建設前にPUEを予測している。次に建設予定のデータセンターでは,外気を大規模に利用する冷却方法を採用する計画で,1.1台のPUEを想定している。1.1と言えば,EPAのレポートで想定している「最先端技術導入型」の1.2を超えるものだ。

熱をできるだけ発生させないために

 IT機器は熱に弱い。Youtubeなどには,CPUのヒートシンクを取り外すとどうなるかを示したビデオが多数投稿されている。CPUの温度が上昇すると,正しく動作しなくなるだけではなく,中には煙を吐くものもある。IT機器の高密度化により発生する熱が増大し,これを除去する冷却装置が多くの電力を消費する事態を招いている。

 それでは,どうすれば一番効率良く熱を除去できるのだろうか。従来は冷たい空気を機器に送り込む「空冷」が標準だったが,最近はパイプで水を循環させる「水冷」も使用され始めている。

 熱の発生を抑える方法は,大きく分けて次の4つの方法がある。完全に熱の発生を抑えることは不可能だが,発生する熱を減少させることはできる。

1.不必要な機器やコンポーネントを撤去する
2.不必要な機器やコンポーネントを停止する
3.熱の発生が少ないコンポーネントを使用する
4.人工的に冷却しない

 1.については,不要なサーバーを停止して撤去することなどがある。役に立たないアプリを実行しているサーバーを放置しておくことは,スペース,電力消費,熱の発生のどの観点から見て何もよいことはない。

 2.については,次のようなケースが考えられる。サーバーへの負荷が時間と共に動的に変化する。与えられた負荷を処理する以上の台数を運用する必要はないが,後で負荷が増加することが予想される。この場合,物理的にサーバーを撤去することはせず,停止させることで余計な電力消費を防ぐことができる。ストレージの場合は使用しないドライブを停止したり,ネットワーク機器では使用しないポートを停止したりする。これは,第9回の電力管理のDynamic Power Managementの項で述べた。同じ方法が,不要な熱の発生を防ぐという意味で,冷却についても有効である。

 3.は主にCPUの問題と言える。IT機器の大部分の熱はCPUから発せられるからだ。これまでCPUの性能向上は,集積度を上げることで実現してきた。しかしCPUの集積度が上がれば,熱の発生が増加し,従来の方法では十分に冷却できなくなってきた。このため,集積度を上げずに性能を上げる方法が考案された。マルチ・プロセッシングである。

 最近のCPUは,1つのダイに複数個のCPUを搭載する,いわゆるマルチコアの設計をしている。処理能力を上げるのに,CPUの集積度を上げずに並列処理を使おうというわけである。

 4.は,できるだけ電力を費やさずに冷却しようという考え方。外気を利用するものは,Air-Economizerという格好の良い名前まで付いている。雪の冷熱エネルギーを利用するものも考案されている。