前回,文書をわかりやすくするための三つの目標を定めました。そのうちの目標1「文書の全体構成を組み立てられるようにする」を,実際の例を使って実践してみましょう。

 下記の文書は,ソフトウエアの機能について説明した文章です。わかりにくい点はどこでしょうか?

どこが問題?(改善前)
 今では珍しくなったWindows 2000で動くソフトウエアには,ヘルプ画面があります。エクセルの場合は,メニューバーの一番右側に「ヘルプ(H)」と表示されていて,ここをクリックすると,左側に「目次」,「検索(N)」,「キーワード」というタブ画面が表示されます。これがヘルプ画面と言われているものです。多くのパソコンソフトにはこの機能がついています。次に「検索」のタブ画面には『キーワード』というメッセージと質問入力用のメッセージとメッセージボックスがあります。ここには日本語のまま入力できます。つまりわざわざアルファベットに直さず,英語に置き換える必要がないということです。そして,ヘルプ機能はそのキーワードを解析して,最適な回答を提示します。つまり,パソコンの使い手の手助けになる,まさにヘルプする機能であると言えます。初心者のみならず,パソコンの使い方が分らなくなったときには,非常に便利です。

ここが問題! 整理されていない文章はわかりにくい

 Windowsのソフトウエアについてある程度知識がある人は,文章の意図がくめるのでわかりにくい部分が見えにくいかもしれません。実はこの文章は,専門外の人には意味がわかりません。

 では,なぜ「意味がわからない」と感じるのでしょうか。それは,この文章が整理できていない文章だからです。

これで解決! 伝えたい事柄を分けて整理する

 では,この未整理の文章をきちんと整理していきましょう。情報整理の手順としては,以下のようになります。

手順1.文章の内容を大きく分ける
手順2.分けた内容それぞれに項目を立てる
手順3.それぞれの項目に情報(文章)を入れる

 まず,「手順1.文章の内容を大きく分ける」です。この文章の大きなテーマは,ヘルプ機能の説明です。あらためて読んでみると,ヘルプ機能を使う目的と手順が書かれていることがわかります。どうやらこの文章は,「目的の説明」と「手順の解説」という二つの内容に大きく分けられそうです。

 次が,「手順2.分けた内容それぞれに項目を立てる」です。これは,手順1で二つに分けた内容それぞれに対して,それぞれの内容を表すわかりやすい名前を付ける作業になります。この場合は,「目的」と「手順」という項目を立てられます。

 そして最後が,「手順3.それぞれの項目に情報(文章)を入れる」です。「目的」と「手順」というそれぞれの項目に入る情報を選びましょう。まず「目的」の項目に入る情報としては,「パソコンの使い手の手助けになる」と「パソコンの使い方が分らなくなったときに非常に便利」という情報が入ります。

 次に,「手順」の項目に入る情報を考えてみましょう。あらためて文章を見ると,以下の部分が手順を説明した文章であることがわかります。

メニューバーの一番右側に「ヘルプ(H)」と表示されていて,ここをクリックすると,左側に「目次」,「検索(N)」,「キーワード」というタブ画面が表示されます。これがヘルプ画面と言われているものです。多くのパソコンソフトにはこの機能がついています。次に「検索」のタブ画面には『キーワード』というメッセージと質問入力用のメッセージとメッセージボックスがあります。ここには日本語のまま入力できます。つまりわざわざアルファベットに直さず,英語に置き換える必要がないということです。そして,ヘルプ機能はそのキーワードを解析して,最適な回答を提示します。

 この部分は文章にすると長くてわかりにくいので,下図のように数字で示して個条書きにします。

図1●文書の内容を「目的」と「手順」の二つに分ける
図1●文書の内容を「目的」と「手順」の二つに分ける

 これで情報の整理ができました。ただし,この図のままでは文章になっていません。ですから,あとはそれぞれの情報をつなげるための言葉を補って文章にします。

改善後
Windows 2000で動くソフトウエアのヘルプ機能について,その【目的】と【手順】を説明します。

まず【目的】です。それは以下の二つです。
1.パソコンの使い方が分らなくなった場合に利用する
2.パソコンの使い手の手助けになる機能である

次にヘルプ機能を使用する際の【手順】です。例えばエクセルの場合は,以下の通りです。
1.メニューバーの一番右側に「ヘルプ(H)」をクリックする
2.ヘルプ画面が表示され,左側に「目次」,「検索(N)」,「キーワード」というタブ画面が出てくる
3.「検索(N)」をクリックするとタブ画面には『キーワード』というメッセージと質問入力用のメッセージとメッセージボックスがあり,日本語のままキーワードを入力する
4.メッセージボックスに最適な回答が提示される。

 いかがでしたでしょうか。冒頭の文章は,「目的」と「手順」の情報が混在してわかりにくくなっていたのです。こうした場合,今回のような簡単な整理法を使えば,分りやすい文書になるのです。

 次回は,この情報整理法のバリエーションを紹介しましょう。

安田 正(やすだ ただし)
パンネーションズ コンサルティング グループ
法人向けの研修を企画・実施する株式会社パンネーションズ コンサルティング グループの代表取締役。ロジカル・ライティング,ロジカル・コミュニケーション,交渉などの領域で,自ら講師としても活躍している。2008年より早稲田大学理工学術院非常勤講師。著書に「誰でも論理的に書ける ロジカル・ライティング」などがある。