大小問わず、投資には優先順位がありますが、その時の環境やはやりによって違ってきます。昨今の世界的な金融・経済危機においては“投資案件”はすべてにおいてペンディング扱いされるケースが多くなってきます。とは言いながら、将来に必要な投資は借金をしてでも断行しなければなりません。では、いったい何を基準に必要な投資と、そうでない投資を区別するのでしょうか?

 これはすべての投資に対していえる事ですが、明確な基準はありません。各々の企業の経営サイドの判断基準により不可欠な投資とそうでない投資が振り分けられてしまいます。そのような環境の中でも、普遍的な優先順位というものが存在します。

 前回のコラムでも少し触れましたが、動機付けのインパクトの強さを考えた時に、すべての企業における共通した投資優先基準が以下のような順序で存在します。

1、生命・財産にかかわる投資
 その投資をしなければ従業員や周辺住民の安全生命にかかわる問題に対する投資です。

2、法律に抵触する案件に対する投資
 その投資をしなければ法律(消防法・商法など)に触れる結果になる投資です。

3、利益拡大のための投資
 その投資を行えば、利益が拡大する投資(合理化や自動化・省力化・無人化など)。

4、売り上げ拡大のための投資
 その投資を行えば、売り上げが拡大する投資(販売ツール・CRMなどの管理ツール・広告など)。

5、しがらみのための投資
 投資動機がしがらみ(経営者・親会社・取引先・顧客)に起因するもの。

 上記の優先順位は絶対のものではありませんが、世間的にみて生命財産の安全や順法性を下位の優先順位ととらえている企業は無いわけですから、この4項目の順序はおおむね納得感があるものと考えます。

 ただ、これは私の経験上の話ですが、日本企業においては往々にして5が3をさしおいて優先される、非合理的判断が下されるケースが意外に少なくないからなのです。この“しがらみ”がIT(情報技術)部門の責任者を悩ませる“頭痛の種”になっている事を経営陣の方々はご存じないようです。親会社から「本社と同様のシステムを導入せよ!!」とか、重要顧客から「長年の付き合いなんだから弊社製品を導入してほしい」、あるいは社長やほかの役員から「私の旧知の会社だから使ってやってほしい」などと、IT部門の責任者としてはかなりきついプレッシャーがかけられるケースがあるのです。

 これはIT部門に限らず、すべての投資案件に対して起こり得る話ですが、財務本部長との戦い方に関してどんな意味があるのだろうと思われる方がおられるかと思います。

”しがらみ”を使うと、十分な効果はある

 実は、私はこの優先順位を利用して投資案件を承認させるという方法を説明したいのです。お気づきの通り、5の“しがらみ”を利用するというのは、説明するまでもなく、強い“しがらみ”がある業者やコンサルタント、ベンダーと結託(少し表現が悪いですが)して投資提案を行うという手法ですので詳しい説明は必要無いかと思います。当然、“しがらみ”を使えば100%承認が得られるということはありませんが、単純に仕様やROI(投下資本利益率)を説明して承認のためのプレゼンテーションを行うのと比べると、十分な効果はあると思います(現に私はこの手法で何回か簡単に承認を得た経験があります)。

 問題は残りの4項目の優先順位の活用です。ただ、第1回のコラムで財務本部長に対するROIの説明に関して説明した通り、上記の3および4を活用する場合には、同コラムの“説明責任移動法”などを用いて実践するという事で、省略させていただきます。

 よって、残りの2項目である1の生命財産にかかわる投資や2の法に抵触する投資に対しての解説になります。ご承知の通り、この1と2に関しては財務本部長といえど、反対するには非常に勇気が必要です。という事は、投資目的の一部を1あるいは2に関連する要件を満たすように考えれば承認を得るハードルの高さがいく分かは下がるという事になるわけです。

 具体例を紹介します。ある企業で人事システムとタイムレコーダーのシステムを統合し、同時に刷新するという提案がありました。人事システムはやむを得ないと判断されましたが、各工場や事業所によってカード形式や勤務体系、コードなどが違ったために人事システムと連動するタイムレコーディングシステムを導入するのは難易度も高く、導入経費も割高であるために見送られそうな雰囲気になりました。