データセンターにおける電力消費の効率性を示す指標として業界標準となっている「PUE」の表記方法が変わる。利用者などがデータセンターの選択項目として使いやすいようルールを定める。シンプルであるがゆえに広く使われてきたが、元データの計測に関する決めごとがなかったため従来は厳密な比較が難しかった。

 「1.6 PUE L1、MW」。これが何を指すかわかるだろうか。「PUE1.6」なら見たことがあるかもしれない。2009年に入り、米グーグルが「米国6カ所にあるデータセンターのPUE平均値は1.21」、米マイクロソフトが「シカゴの新データセンターはPUE1.22」などと相次ぎ発表した。4月には、「グーグルは1.16に改善した」との報道もあった。

 冒頭の“式”は、データセンターにおける電力消費の効率性を示す指標「PUE(Power Usage Effectiveness)」の新しい表記法だ。米国のグリーンIT推進団体「グリーングリッド」が詳細を策定中で、早ければ年内にも確定する。同団体は国内外のほとんどのデータセンター事業者が参加しているだけに、新PUEが広く利用される可能性が高い。認定制度の計画もある。

“自称PUE”では比較できない

 PUEは、データセンター全体の消費電力量を、サーバーやストレージといったIT機器による消費電力量で割った値である(図1)。値が小さいほどIT機器が消費する電力の割合が高く、空調などの設備が消費する電力が小さい。つまり、それだけ効率的に無駄なくIT機器へ電力を供給できている。2.0以下ならばエネルギー利用効率が高いデータセンターといえる。環境にやさしいだけでなく、運用コストも抑えていることになる。

図1●PUEの値が小さいデータセンター構築の動きが活発化しているが…
図1●PUEの値が小さいデータセンター構築の動きが活発化しているが…
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 簡単な割り算で計算でき、非常にわかりやすい指標だ。グリーングリッド 日本データ調査委員会代表であるインテル マーケティング本部の田口栄治氏は、「シンプルだからこそ短期間で認知され、事実上の標準指標となった」と語る。

 2007年から急速に広まり、データセンター事業者がアピールの材料として使い始めた。環境への対応が重要視されるなか、その傾向は高まるばかりだ。

 各社がPUEを掲げるようになって問題が出てきた。計算における前提が決まっていないため、単純な横並びで比較ができないのだ。例えばPUEの分子に「データセンターに供給された全電力量」を使うのと「供給電力量から共用空調機分を引いた電力量」を使うのとでは、分母が同じであってもPUEの値は異なる。分母にあるIT機器の消費電力量も、UPS(無停電電源装置)で測る値とPDU(電源配分ユニット)で測る値は異なる。さらに、それぞれの値として年間の平均値を使うのか月平均かでもPUEは違ってくる。

 現在PUEを公表しているデータセンターで、こうした“前提”を含めて出しているケースは少ない。自社に有利なデータだけを使ってPUEを算出するケ ースがあってもおかしくない。