写真1●エフピコの広島県福山市にある本社
写真1●エフピコの広島県福山市にある本社
経済不況が吹き荒れる中,2009年3月期決算は,売上高,当期純利益共に過去最高を達成した。

 簡易食品トレー最大手のエフピコは,年間12~13万トンの発泡スチロール製トレーを販売している。環境への配慮から,すでに20年前から容器包装のリサイクルに取り組み,回収したトレーから新しいトレーを再生する“トレー to トレー”の技術を確立。現在,全国約7000の拠点から年間約6500トンのトレーを回収し,6カ所のリサイクル工場で再資源(ペレット)化している。この再生原料を使った製品は「エコトレー」として販売され,売上高の1割を占めるまでになった。

 「容器を大量生産するメーカーであることから社員の環境意識は高く,グリーンITへの取り組みは普通の会社よりも早かったと思う」と,同社情報システム部の井上隆仁ジェネラルマネージャーは切り出す。

 その言葉通り,同社は2003年以降,グリーン物流,電子帳票,TV会議システム,モバイルワークと,数々のグリーンITの取り組みを実践し,大きな成果を上げている。そこには,システム部門と環境部門が手を携え,常に目標を共有しながら前進する“成功の法則”を垣間見ることができる。

4つの領域に分けてグリーンITを推進

 同社では,グリーンITを4つの領域に分けて推進してきた。「モノの移動の削減」,「人の移動の削減」,「省スペース化」,それに「ペーパーレス化」である。中でも,通常期で1日当たり100台,繁忙期では170台以上にもなる配送トラックから排出されるCO2の削減(モノの移動の削減)は大きな課題だった。

 同社は2003年にSCMシステムを稼働させ,効率的な生産/配車計画に取り組んできた(図2)。SCM部門が売上(需要)予測や前年の売上実績などを基に生産部門に指示を送ると同時に,物流部門に対して配送計画を策定する。生産の進ちょく状況は日次で把握。直近の取り引きの特記事項を反映させつつ,生産計画は週次で見直している。

図2●SCMの中核となる配車計画/倉庫管理システム
図2●SCMの中核となる配車計画/倉庫管理システム
SCM部門が売上(需要)予測を基に生産部門に指示。同時に,物流部門に対して配送計画や在庫計画を策定する。配車計画/倉庫管理システムの精度を高めることで,物流コストの大幅削減とCO2排出量削減とを実現した。

 物流において資産効率を高めるには,最短距離で輸送することが重要。そこで鍵となるのが,配車計画システムと倉庫管理システムである。これらのシステムの精度を高めることによって需給バランスを改善し,これまで生産拠点間で行っていたトレーの横持ち(在庫の拠点間移動)の回数を大きく減らした。「2008年は前年に比べ,横持ちにかかる物流コストを34.6%削減できた」と,井上氏は強調する。

 実際,配車計画/倉庫管理システムによる物流プロセスの改善により,2008年度は5年前の2003年度よりも,全社の物流コストが約47億円減ったという。製品売上高に対する物流コスト比率も2008年度は14.3%となり,2003年度の17.4%に比べて3ポイント以上改善した。

 物流の効率化はコストだけでなく,CO2排出量削減にも大きく貢献している。同社では2004年に「物流部門CO2削減分科会」を設置。容器枚数1000枚当たりの配送に伴うCO2排出量を,2010年に2004年比40%削減する目標を立てた。そのうえで配車計画システムの活用やエコドライブ,積載効率の向上などに取り組んだ結果,「2004年から2007年までの3年間で,トレー1000枚当たりCO2排出量を25.5%削減できた」と,環境対策室の井上達弘マネージャー(以下,井上(達)氏)は報告する(図3)。

図3●物流によるCO2排出量
図3●物流によるCO2排出量
トレー1000枚当たりの消費燃料(トラック配送)の実績から算出。2004年に比べて2007年は25.5%削減した(出典:エフピコ)。

 グリーンITの取り組みの中でも,物流の効率化によるCO2排出削減効果はとりわけインパクトがある。同社の年間容器生産量を13万トン,燃料(軽油)のCO2排出原単位を2.95kg/リットルとして編集部が試算したところ,この3年間の物流対策によるCO2排出削減効果は年間約2万トンにのぼった。

 同社では物流のエコ化をさらに進めるため,物流に伴うCO2排出量を管理するシステムを2008年に構築した。「月次でCO2排出量を把握し,物流システムを改善するための資料として役立てていく」(井上氏)。