実際のところ,エリア改善を目的としたフェムトセルの商用サービスは,ユーザーにとって必ずしも魅力的とは言えない。“フェムトセルならでは”のメリットが薄く,携帯電話事業者が屋外の基地局を整備すれば十分だからだ。とりわけ日本ではその傾向が強い。

 NTTドコモ無線アクセスネットワーク部の宮下真一IMCS部門担当部長は,「今のところフェムトセルは,屋外基地局の調整や小電力リピータなどと並ぶエリア改善ツールの一つとしての位置付け。他の手段で問題が解決する場合もある」と語る。そのため実際にフェムトセルを設置するケースはまだ少ないという。

 にもかかわらず携帯電話事業者が相次いでフェムトセルに取り組むのは,エリア改善用だけでなく,ビジネスチャンス拡大のツールとして期待しているからだ。フェムト・フォーラムのサウンダース議長は,「エリア改善を目的としたフェムトセル活用は,あくまで“フェーズ1”の段階。フェムトセルは様々な可能性を秘めている」と強調する。

業界を挙げてサービス像作り

写真1●東京で3月末にフェムトセルの最新動向を紹介するイベント「Femtocells Asia 2009」が開催された
写真1●東京で3月末にフェムトセルの最新動向を紹介するイベント「Femtocells Asia 2009」が開催された

 事実,2009年3月末に東京で開催されたフェムトセルに関するカンファレンス「Femtocells Asia 2009」(写真1)では,フェムトセルならではの特徴を生かした“フェーズ2”のサービスに関する話題が相次ぎ,取り組みが進んでいることが明らかになった。

 ベンダー各社にとっては,エリア改善用のフェムトセルだけでは大きな出荷台数は見込めないという事情もある。より多くのフェムトセルの出荷が見込めるフェーズ2へ,市場を移行させることが急務となっているのだ(図1)。

図1●付加価値を生むフェーズ2へ取り組みが進む
図1●付加価値を生むフェーズ2へ取り組みが進む

 パナソニック モバイルコミュニケーションズ ネットワーク事業部の巽昭憲 LTE事業グループ グループマネージャー兼事業開発チーム チームリーダーは「少なくとも数百万の出荷規模にならなければ,フェムトセルをビジネスとして成り立たせるのは厳しい」と打ち明ける。そのためフェムト・フォーラムのような業界団体では,「新しいサービス像と新たな収益モデルの検討に多くの時間が割かれている」(NEC国内第二ネットワークソリューション事業部の山 哲夫第一システム部マネージャー)。できるだけ早く市場を立ち上げるために,フェーズ2サービスのイメージ作りを急いでいるのである。

 こうした動きに,携帯電話事業者も期待を寄せる。ソフトバンクモバイルの宮川潤一取締役専務執行役CTOは,「フェムトセルは携帯電話事業者にとって新たなレベニュー・ドライバになる」と語り,フェムトセルによる新たな収益モデルを追求。既に“フェーズ2”に向けた実証実験も進めている。

 NTTドコモ ユビキタスサービス部の澤井浩一IPサービス戦略担当部長も,「フェムトセルは携帯電話事業者のネットワークとユーザーの家の中をつなぐ重要なツールになる。エリア改善目的だけでなく,ユーザーが便利だと感じるサービスの提供を目指して準備をしている」と打ち明ける。