ビルの屋上や鉄塔などに設営する携帯電話基地局を,家庭内に置く無線LANアクセス・ポイント並みに小型化したフェムトセル。この数年,機器の開発やトライアルが進んでいたが,いよいよ国内外の携帯電話事業者が一斉に動き出した(図1)。日本のNTTドコモやソフトバンクモバイルだけでなく,米スプリント・ネクステル,米ベライゾン・ワイヤレス,米AT&Tモビリティ,英ボーダフォン,スペインのテレフォニカなどが商用サービスやトライアルを始めている。

図1●不感地域対策や定額サービスの道具として商用化が始まったフェムトセル
図1●不感地域対策や定額サービスの道具として商用化が始まったフェムトセル
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 これらの取り組みはいずれも,エリア改善を目的とした“守り”の使い方である。ただ携帯電話事業者にとって,これはゴールではない。事業者が狙っているのは,フェムトセルを“攻め”のツールとして使い,新たなビジネスチャンスを拓くことだ。

世界各国でエリア改善目的でスタート

 “守り”のツールとしてのフェムトセルは国内外で商用化が始まっている。

 米国ではスプリント・ネクステルが,フェムトセルを使って屋内エリアの改善と通話定額を実現するサービス「AIRAVE」を2008年8月に全米で開始した。これを皮切りに,他事業者が続々と追随。ベライゾン・ワイヤレスは2009年1月に同様のサービスを開始した。AT&Tモビリティもフェムトセルのトライアルを実施している。

 欧州でも英ボーダフォンやスペインのテレフォニカなど多くの事業者がトライアルを実施。フェムトセルの普及を目指す業界団体フェムト・フォーラムのサイモン・サウンダース議長は,「今ではフェムトセルに興味を持たない通信事業者のほうが珍しい」と語る。

 一方,日本ではNTTドコモが2007年秋から高層マンションやビルの防災センターなどの不感地域向けにフェムトセルの運用を開始。ソフトバンクモバイルは2009年2月に岡山県新見市で,同じく不感地域対策用としてフェムトセルの商用展開を始めた。開始時期は未定ながら,KDDIも高層マンションなどの不感地域対策向けにフェムトセルの提供を計画中。既に商用機器の開発に着手しているという。

 日本では2008年末に制度が整ったことがフェムトセルの商用化を後押ししている。以前は難しかった,ユーザー宅のブロードバンド回線を使ったフェムトセルの運営や,フェムトセルの一括申請が可能になったからだ。実際,ソフトバンクモバイルでは,一括申請によってフェムトセルを設置し,従来よりも展開の手間を省けたという。NTTドコモも高層マンションなど不感地域対策用に設置しているフェムトセルの一部で,ユーザー宅のブロードバンド回線を利用している。