バックアップ・ウインドウ,すなわちバックアップが可能な時間は,サービス時間の延長やデータ量の増大から不足しがちな傾向にあり,頭の痛い問題です。今回はバックアップ・ウインドウにかかわる検討事項について説明します。

 バックアップ・ウインドウを改善するというのは,バックアップ性能を向上させることに等しく,そのためには,1.システムのデータ転送能力,2.ディスク・システムの構成,3.スナップショット,4.データ量,5.ファイル・サイズ,6.バックアップ経路,7.バックアップ装置,8.バックアップ・ソフトへの配慮が必要です。さらに,9.バックアップの運用方法まで適切でなければなりません。範囲が広く,議論が拡散しがちですが,これらをポイントごとにまとめて解説します。

1.システムのデータ転送能力

 たいていの情報システムは,オンライン処理のピークや夜間バッチ処理のことを考えてハードウエアをサイジングしています。つまり,データのフルバックアップを前提にしていないケースがほとんどです。

 例えば,2Kバイトのトランザクションが毎日100万件あったとしても,転送対象となるデータ量は1日で2Gバイトほどです。そのシステムで扱うデータが10Tバイトあるとして,仮に3時間のバックアップ・ウインドウでフルバックアップしようとすると,2時間で10Tバイトのデータを転送させる必要があります。これは決して極端な例ではありません。

 必要なバックアップ速度を得るためにハードウエアへの投資を行おうとすると,その投資額は少なくないでしょう。より少ない投資で済ませるには,バックアップも含めたシステムの統合化を積極的に検討する必要があります。

2.ディスク・システムの構成

 バックアップ・ジョブを並列に実行させることができれば,バックアップ・ウインドウを短くできます。そのためには,パーティション構成とディスク・システムの構成が重要になります。例えば,大きなサイズのRAWパーティションの場合,バックアップ処理を分割できず,バックアップだけでなくリストアも長い時間が必要とされます。

 バックアップを一定の時間内に完結させようとすると,ディスクの配置を見直すことが求められます。このような課題に対しては,ストレージ・システム側の性能がモニターでき,柔軟に構成変更できるようになっていることがポイントです。

3.スナップショット(スプリット・ミラー,クローン)

 スナップショットは,ディスクの複製を短時間で作成する技術です。この技術を使えば,バックアップウインドウを短くすることができます。リストアも複製されたディスクから短時間で行えるだけでなく,構成によってはデータのリストアを行わず複製ディスクをそのもの本番ディスクとして使うこともできます。昨今,ミドルレンジ以上のほとんどのディスク・システムには何らかのスナップショット技術が搭載されています。

 スナップショットには,ポインタと変更前情報だけを持つ「コピーオンライト」(狭義のスナップショット),ミラーを切り離して静止点を取る「スプリット・ミラー」,同一のデータ・ブロックを持つ「クローン」,といった方式があります。スナップショット技術はバックアップ・ウインドウを短くできる半面,方式によっては通常運用時のディスク入出力負荷を高めてしまいます。通常運用時のディスク入出力負荷が最も高いのがコピーオンライト,次いでクローン。通常運用時のシステム性能に影響をほぼ与えないのがスプリット・ミラーです。