大切な情報(データやシステム)を安全に保管できる施設を作るとなると,そこにはさまざまな設備が必要になります。主な設備は,次の五つです(表1)。

表1●主な不安要素とその対処法
不安要素 対処法や必要な設備
データの盗難 人の出入りを制限する入退場管理機構を備えたサーバー専用ルームの設置
安定的な給電 電源容量の確保(事務所の電源では不安定),停電対策の自家発電設備の設置
システム機器の過熱 専用の空調設備の設置
火災 水を使わない消火設備の設置
地震 地震対策用の耐震設備の設置

 一つは,人の出入りを制限する入退場管理です。指紋や静脈などの生体認証やICカードによる認証によって,入場許可を持たない人の出入りを防ぎます。二つ目は,電源設備です。長期間の停電に備え,UPS(無停電電源装置)に加えて自家発電設備も必要です。

 三つ目は,機器の過熱を防ぐための空調設備です。発熱するサーバーを効果的に冷やします。四つ目と五つ目は災害対策用の設備で,火災に備えた消火設備,地震に備えた耐震設備です。これらの設備を整えるのには,膨大なコストがかかります。このため,よほど大きな企業でない限り,自社で施設を作るのには無理があります。

設備をシェアして低コスト化

 そこで出てきたのが,第三者(データセンター事業者)などが構築した施設を複数の企業がシェアすることで,各企業(ユーザー)は比較的安価に前述した五つの設備を利用できる,という「データセンター」のアイデアです。停電が起きようが,台風が来ようが,はたまた地震が発生しようが,とにかく使いたいときにはいつでも重要なシステムやデータ(情報)を使えるようにしたい,もちろん盗難などの被害からだって守りたい,しかしコストはあまりかけられないという企業の方々に,データセンターは利用されているのです。

 データセンターでは,設備はシェアしますが,ラックやサーバー,ネットワーク機器などのシステムをシェアするかどうかは,ケース・バイケースです。例えば,一つのラックあるいは1台のサーバーを複数企業で共有する形態もあれば,1社で独占的に利用共有する形態もあります。

データセンターとiDC

 インターネットが普及した現在では,データセンターのほとんどは大容量(水道管にたとえると太い管に相当します)のインターネット回線を引き込んでいます。なお,当初はこうしたデータセンターをインターネット・データセンター(iDC)と呼んでいましたが,インターネットが普及した現在では,インターネット回線を持たないデータセンターはほぼ皆無と考えて差し支えありありません。

 例えば,皆さんは今,インターネットを使ってこの文章をご覧になっていることと思います。インターネットは24時間いつでも利用できますよね。実は,インターネットを利用可能にするサービスを提供しているISP(インターネット・サービス・プロバイダ)の多くは,データセンターの利用者です。また,携帯電話やPCで映画を見たり,音楽や画像をダウンロードしたりすることがあると思いますが,そういったシステムやデータもデータセンターに保管されていることが大半です。

 ここまでの話を要約しますと,データセンターとは重要なシステムやデータの預け先となる施設のことです。そこは,システムやデータにとって安全な場所となるよう,各種設備が整っています。

 安全性を高めるため,一般にはその所在地(住所)が公開されていません。しかし,データセンター事業者の営業窓口を通じで相談をすれば親身に相談に乗ってくれ,預けるものさえ決めてしまえば,意外と簡単に利用できるのです。次回は,データセンターの歴史や機能の移り変わりについて説明する予定です。

こぼれ話:法定点検のとき電源はどうなる
 皆さんの職場では,年に1度の割合で,停電の案内がありませんか? 法定点検(法律で定められている,ビル内の電源設備等の点検)によるもので,一般に日曜日や祝日など,業務に影響が生じにくい日に実施されます。電源の冗長化(予備電源などの施設)がされていないビルでは,一定時間は停電になることが避けられないので,企業によっては「冷蔵庫の中の生ものは処分してください」などの案内があったりします。

 そうしたオフィス・ビルに,止められないシステムが置かれていることがあります。その場合は,「電源車」という特別な車両を手配して,点検などに伴う停電の間はその電源車から電源供給を受けます。データセンターでも電源設備等の点検はありますが,自家発電機能を備えているので,特別な理由がない限り電源車の出番はありません。
森 仁平
リコーテクノシステムズ ITマネージド本部 EMS運用部 部長
 EMS運用部は,リコーが提供しているデータセンター・サービス「ITKeeper EMS(エンタープライズ・マネージド・サービス)」の運用部門。ネットワークやハードウエア,運用管理ツールなど各分野の専門家が集まっている。データセンターで預かっている利用企業のシステム機器に対して,リソースや性能を含む状態監視を実施し,システム障害発生時の対応はもとより,監視データの分析結果を基にした障害予防を行う。森氏はデータセンターの運用経験が豊富なネットワーク系エンジニア。マネジメントとテクニカルの両面からメンバーを支援している。