1980年代後半になると,コンピュータを自営の施設ではなく,コンピュータ・ベンダーやデータセンター事業者が運用する,データセンター(外部の安全な場所)に預ける企業が増えていきました。コンピュータ・システムを安全に運用できるようにするには,入退場管理や電源設備,空調設備消火設備,耐震設備を備えるのが望ましいのですが,それを自営の施設として整えるとなるとコストが高くつくからです。

 そのころは,データセンターと企業間,企業の拠点間の接続には,主に専用線と呼ばれる回線が利用されていました。専用線の月額費用がとても高価だったことから,場合によってはISDNが使われることもありました。

 インターネットが1990年代後半に爆発的に普及しました。今では,自宅でADSLや光ファイバーなどを利用してインターネットに接続するだけではなく,携帯電話でもインターネット・メール機能やWeb検索機能を当たり前のように使えます。携帯電話のキャリアがインターネット接続をしているから,こうした機能を利用できるのです。

 ほぼ同時期に,重要なコンピュータ・システムやデータは,安全なデータセンターに預けるという意識が高まっていきました。そのきっかけの一つに,1995年に起きた阪神淡路大震災などの大災害があります。データセンターを利用している場合と,そうではない場合とで,復興後の事業再開の難易度に大きな差が生じたのです。事業再開までの時間が極端に長いようでは,企業の信頼性や信用度が失墜してしまいます。

 データセンターの重要性は広く認識されるようになりましたが,専用線の高額な利用料がネックとなって中堅・中小企業は利用に二の足を踏む状況でした。それが2000年以降,インターネットの普及に伴ってデータセンターと企業をつなぐ安価なデータ回線として,インターネットVPNの利用環境が整い,データセンターの利用が一気に広まったのです(図4)。

図4●インターネットVPNでデータセンターと接続
図4●インターネットVPNでデータセンターと接続

 インターネットVPNは、専用線と比べ比較的安価にネットワークを構築できます。その半面,インターネットを経由するのでデータを盗聴される危険があります。そのため,VPN装置でデータを暗号化して流します。また安価なインターネット回線は,ベストエフォート(品質を保証する工夫をしていない)サービスであるため,通信帯域(通信速度)の保証がありません。したがって,条件の変化によって通信速度が遅くなることもあります。

 回線事業者(通信キャリア)が多数登場し,激しい競合が起きました。その結果,データ通信の低コスト化と多様化が進行しました。また,ニーズに応じて,最適なネットワーク種別やサポート・レベル(対応時間が平日09:00~18:00,あるいは24時間365日など)を選べるようになりました。

 インターネットの普及によって,インターネットと接続していないデータセンターはほぼ皆無の状況になりました。その結果,データセンター(DC)はインターネット・データセンター(iDC)とも,呼ばれるようになったのです。

こぼれ話:2000年といえば・・・
 1990年代の終わりころには,2000年問題の対応に追われた記憶があります。そのころ,私はLotus Notesサーバーなどのサーバーを管理しており,パッチの適応やアプリケーションの動作確認に追われていました。  1999年の大みそか当日は,遠隔操作で確認して,万が一問題が発生した場合には,現地に急行して対応するつもりでした。事前準備を綿密にしておいたこともあり,問題は特に発生せず,30分ほどで確認作業が終わりました。とてもすがすがしい気持ちで,新年を迎えた記憶があります。
松尾 典彦
リコーテクノシステムズ ITマネージド本部 シェアードサービス部 シェアード企画グループ リーダー
シェアードサービス部は,データーセンターを利用した,外販向け共有サービスの運用部門。提供サービスには,ホスティング・サービスやリコーグループ会社向けのシェアード(共有)サービスがある。松尾氏は,Lotus Notesなどのサーバー/クライアント・システムのエンジニア。