スクウェア・エニックスのCIO(最高情報責任者)である西角浩一コーポレート・エグゼクティブIT担当
(写真撮影:北山 宏一)

 「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」などの開発・販売元であるゲームソフト大手のスクウェア・エニックスでCIO(最高情報責任者)を務めるコーポレート・エグゼクティブIT担当の西角浩一氏は異色の経歴を持つ。大学院で応用物理学を専攻し、大手コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーやワトソン・ワイアット、IT(情報技術)ベンダーのアクセンチュアやシスコシステムズなどを渡り歩いた。その後2008年にスクウェア・エニックスに入社。旧スクウェアと旧エニックスの歴史的合併を主導した豪腕経営者として知られる和田洋一社長から、「当社が創造性を発揮し続けるのに必要なIT基盤と組織を作ってほしい」と誘われ、入社を決断したという。

 同社のIT担当の守備範囲はかなり広い。生産・販売・物流管理などの基幹業務システムに加えて、「ファイナルファンタジーオンライン」などオンラインゲーム運営のため、膨大な数のサーバー群を自社運用している。西角氏は「全世界のユーザーが日本にあるサーバー上でゲームを楽しんでいる。24時間常時サーバーの稼働率が高く、システム障害は許されない。こんなシステムは他社にはない」と話す。

 ゲーム開発プロセスの革新にも取り組んでいる。ゲーム開発も企業情報システム構築もプログラムを組み上げる点では同じ。ただ、企業情報システムの場合は要件定義をきちんとしてその通り開発することが重要だが、ゲーム開発は「要件定義が完ぺきでも、遊んでみて面白くなければ意味がない」(西角氏)という違いがある。

 それでも、一定のプロジェクト管理は必要になる。アクセンチュアなどでプロジェクト管理方法論を学んできた西角氏の目には「最大で200人規模の大規模ゲーム開発プロジェクトもあるのに、プロジェクト管理の方法論が確立していないのは問題がある」と映った。そこで西角氏は、スクウェア・エニックス流のプロジェクト管理方法論を形式知として文書化する取り組みも進めている。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・和田洋一社長とは、週に1回から多い時は3~4回会い、密にコミュニケーションを取っています。単なる「報告」と、「判断してほしいこと」を分けて話すようにしています。特にゲーム開発環境の整備は、(マイクロソフトやソニー・コンピュータエンタテインメントなど)社外との協業で、会社としての判断が必要になる局面が多くなっています。

・当社のIT部門の技術者は、ネットワーク機器の設定をベンダー任せではなく自分でするなど、本当に高度な仕事を日々こなしてくれています。ただ、これをそのまま社長に話しても伝わりません。私自身が部下の仕事の内容をよく理解して、それを「経営への影響度」という観点に置き換えて伝えることに留意しています。

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・営業の基本は相手のニーズをつかむこと。これを意識してほしいと思います。各分野のトップ企業はきちんとしているケースが多いのですが、2番手以下の下位ベンダーほどニーズを無視して「とにかく買ってくれ」という姿勢が強いように感じます。

◆最近読んだお薦めの本
・この1年でインパクトを受けた本は、『5万年前―このとき人類の壮大な旅が始まった』(ニコラス・ウェイド著、沼尻由起子訳、イーストプレス)と、『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの』(ジャレド・ダイアモンド著、楡井浩一訳、草思社)

・読み返すことが多い本は、『悪魔との対話―サンユッタ・ニカーヤ2』(ブッダ著、中村元訳、岩波文庫)です。

◆ストレス解消法
・クラシック音楽鑑賞とガーデニングです。

■変更履歴
記事公開当初、「Profile of CIO」の項目の一部が欠落しておりました。また、本文4段落目のゲーム開発プロジェクトの規模について、取材先の申し入れにより「最大で200人規模」という記述に訂正します。本文は訂正済みです。お詫びして訂正します。[2009/05/18 17:20]