Forrester Research, Inc.
フランク・ジレット バイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト

 今年3月29日の日曜日、「オープンクラウド・マニフェスト(The Open Cloud Manifesto)」と呼ぶ文書がWeb上で公開され、36の企業・組織がさっそく支持を表明した。

 このマニフェストの策定と立ち上げの裏にはIBMの強い働きかけがあったとされる。マニフェストの執筆者の目標は、クラウドの概念を貫く様々な次元で、オープン性の原則を確立することだ。

 立ち上げの手順があわただしかった上に、マニフェストの文言には理想主義的で細部が不明瞭なところもある。このためクラウドコンピューティングをリードするメジャープレーヤーたち、すなわちアマゾン・ドットコム、グーグル、マイクロソフト、セールスフォース・ドットコムの4社は最初の支持者リストに名を連ねなかった。

 それでも、マニフェストは業界にとって賞賛に値する第一歩であるとフォレスターはみている。クラウドというあいまいなトピックスに実体と明確な定義をもたらし標準を確立するための長きにわたる様々な進化がここから始まるからだ。

 「クラウド」という言葉は実にあいまいだ。今は一般消費者向けのWebベースのサービスからITインフラの貸し出しサービス「IaaS(インフラ・アズ・ア・サービス)」まで、何でもクラウドと称している。定義があいまいなことはクラウドの最大の訴求点でもあるし、欠点でもある。このため今回のマニフェストも、非常に広い範囲を対象にしている。

 マーケティング担当者とは異なり、戦略立案担当者はあいまいな言葉を嫌う。定義をはっきりさせるために、戦略立案担当者は可能な限り明確に「アズ・ア・サービス」の頭文字を決めるよう自らを課すべきだ。

 これは非常に重要なことである。クラウドという言葉自体は早晩消えてなくなるが、トレンド自体はずっと続くとフォレスターは考えている。

 マニフェストでうたわれているオープンの理想には、大きな価値がある。しかしベンダーが戦略を立てる上で、あまり参考にならないことも否定できない。

 マニフェストでは「オープン性」に力点をおいているが、この言葉は業界における過去の失敗を回避するための協業や相互運用性/可搬性の確保、標準といったことの必要性を示すために使われている。

 しかし、これらはすべてのクラウドコンピューティングの機会にふさわしいとはいえない。これはグーグルやマイクロソフトやアマゾンのような企業が、競合に対する優位性の源泉である基盤ソフトやデータセンター設計の詳細を公開しなければならないと言っているのだろうか。そんなことはできっこない。

 ベンダーはこれまでよりもオープンで透明性が高く、標準に基づくソリューションを常に探し求めている。しかしオープン性は魔法の杖ではないし、すべての場所に適用できる言葉でもない。

 オープン性と標準は企業が現在使っている技術をサービスベースに移行するには有益だろう。しかしクラウドの中核技術は、検索やソーシャルネットワーキングやメディア共有といった巨大なWebスケールのアプリケーションのために開発された全く新しいアプリケーションアーキテクチャに基づいている。初めからクラウド向けに開発されたアプリケーションは、顧客のところに持って行ってもまともに動かないし、すべきでもない。

 一つの統一されたマニフェストにばかりこだわるよりも、ベンダーの戦略立案担当者は様々なレベルで対話をすべきと考える。こうした活動が標準化と相互運用性をもたらす様々な取り組みに発展するとフォレスターでは考えている。

◆本記事は,“The Open Cloud Manifesto Offers Worthy Ideals”を日経コンピュータ編集部で翻訳・構成したものです。