1960 年生まれ,独身フリー・プログラマの生態とは? 日経ソフトウエアの人気連載「フリー・プログラマの華麗な生活」からより抜きの記事をお送りします。2001年上旬の連載開始当初から,現在に至るまでの生活を振り返って,順次公開していく予定です。プログラミングに興味がある人もない人も,フリー・プログラマを目指している人もそうでない人も,“華麗”とはほど遠い,フリー・プログラマの生活をちょっと覗いてみませんか。
※ 記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります。

 前回は,私がストレージ系のベンチマーク・テストをするに至った経緯と理由について書いた。私は当時,SCSIのハードディスクに全幅の信頼を置いていたのだが,Ultra ATA/133の登場によって,RAIDと組み合わせることで新たな選択肢になるかもしれないと考えたのだ。そして,数々のハードウエアを調達し,あれこれと測定しまくった結果,いろいろなことがわかった。

 例えばディスクの速度である。その当時,チャネルのバンド幅が最大160MB/秒などといっても,ディスク自体の速度はそれほど速くなかった。せいぜい30~50MB/秒程度であったと記憶している。同一チャネルにマスターとスレーブ2台のディスクをIDEで接続して同時にアクセスすると,全体性能がかなり落ちる。Ultra ATA/133でも133MB/秒までいかないのである。一方SCSIは優秀で,ほぼ帯域幅いっぱいまで働いてくれる。

 こうした測定を次々と繰り返していたのだが,ある時ぼんやりと集計データを眺めていて,あることに気がつき,衝撃を受けた。それは,値段は性能に比例するという,当然の事実であった。それもそのはず,製品の特性をいちばんよく知っているのは,それを設計・製造しているメーカーにほかならない。そして,ブレークスルーがない限り,性能/コスト比はほとんど変えることができない。ハードディスクのように成熟した技術の成果を,秋葉原あたりで購入していればなおさらである。したがって,ある特定の時期にリリースされている製品をかき集めて比較しても何の意味もない。メーカーの公表値には表れないかもしれないが,500円とか1000円の差には意味があるのだ。安くておいしい製品など存在しないのである。

 もう一つ,RAIDコントローラについてである。実はこの製品も,CPUで面倒を見るタイプと,インテリジェントなタイプがある。両者の価格帯ははっきり分かれていて,前者は高くても2万円も出せば手に入る。一方,後者は10万円近くするものもある。前者は,要するにデバイス・ドライバで処理を行うソフトウエアRAIDにすぎない。広告に書いていなくても,価格を見ただけでおおよその見当がつく。あるいは,ボードに載っているチップが確認できれば仕掛けは判明する。ベンチマークを取る必要なんてないのだ。

 さらにもう一つ。いろいろと試している間に,選択の幅という問題に突き当たった。例えば,私がRAIDコントローラをLinuxで使いたいと思ったとしても,Linux用デバイス・ドライバが提供されていなければ採用できない。当時はLinuxのカーネルのバージョンがどんどん変わっていく時代であったので,そのたびにデバイス・ドライバのリビルドが必要になる。メーカーが熱心にデバイス・ドライバのアップデートをしてくれていれば良いが,そうでなければソースコードが提供されていない限り安定して使えない。

 あるいは例えば,(当時の話なので今は状況が変わっていると思うが)RAIDで接続しているハードディスクの温度を監視しようとした場合,そもそもそうした機能を提供している製品はとても少ない。性能比較うんぬんよりも,こういったことで選択肢が絞られてしまうケースが意外に多いことに気がついた。

 もちろん,中にはCPUのように,次の世代が出るまでのブリッジとして新しいファミリーを送り出し,ユーザーの買い替えをうながすケースもある。こういうときにはベンチマークはよい判断材料になってくれるだろう。ただし,もちろん完全に世代交代してしまってからでは意味がない。例えば,7200rpmのハードディスクはうるさいだろうから,同じ機能を備えた5400rpmの製品が欲しいと思っても,入手できなければ意味がないのだ。

 かなりの時間とお金を費やした結論として得られたのは「一時期に商品をかき集めてベンチマークをとってもあまり意味がない」という教訓であった。後には不必要にたくさん購入してしまったハードウエアが残ったが,「定量的に測りたい」という欲望から解放されるための授業料だったと思うことにした。おかげでその後,パソコン雑誌や情報サイトで新製品の発表を見ても,物欲にかられなくなった。

 その結果,我が家の主力デスクトップと開発用サーバーはいまだにPentium III 1.3GHzである。紺屋の白袴と言われそうだが,大抵の仕事が客先のサーバーにリモート・ログインして作業するスタイルなので,とりあえずこれで事足りている。サブマシンは音楽を編集したり,DVDを見たりするので,少しグレードの高いものを使っているがそれでもAthlon64 3400+である。ハードディスクは,ここ1年ぐらいは増設用としてSATAを購入することが多くなったが,開発用サーバーに実装してあるのは,いまだにSCSIだ。このSCSIのハードディスクであるが,実は8年間ほどずっと回りっぱなしである。部品交換や停電で過去合計数十時間ぐらいは停止しているかもしれないが,それにしても驚くべき耐久性である。

 先日,パソコン雑誌の編集者と話をする機会があったので,「性能比較は対数で」という話をしたら,それだと違いがわからなくて困るという返事が返ってきた。彼らも知っていてやっているのだ。しかし,まあいいだろう。体感ではほとんど差がないとわかっていても,あと数千円出せばもう少し性能がいいものが手に入る,という欲望に負けてしまうのが人間の性というものである。購入者から見れば,上乗せ分が無意味でないということがはっきりしていればよい。ワンランク上のものを入手したと考える人の幸せや満足感を定量的に測る手段はないのだから。