私はいわゆる「ネットワーク」という分野でいろいろ仕事をしています。そのため,「ネットワークっていったい何なんだろう?」と考えることがしばしばあります。

 ネットワークはいろんなものを提供してくれますが,実際に「サービス」となってみると,実はあまり皆さんからは見えない存在ですよね。つまりネットワークというのは,それ自身が我々の生活に価値を与えてくれるものではなく,「サービス」という実態に近い形が見えてきて初めて活用できるものなんです。考えてみれば当然の話なのですが,時々こういうことを忘れてしまっています。

 そこで今回は,少しネットワークから離れて,よりサービスに近いところからネットワークを考えてみたいと思います。

 サービスに近いというところで注目を集めているものといえば,最近皆さんがよく耳にする「クラウド・コンピューティング」があります。この「クラウド」というものは,なかなか実態がつかみずらい。一番イメージしやすいのはグーグルの「Google App Engine」や,アマゾンの「Amazon EC2」などのサービスですね。ただし,それらはクラウドのごく一部です。そこで,クラウドとペアで語られることの多い「仮想化技術」を中心に話を進めていきたいと思います。

 ただ,私は一介のネットワーク屋ですから,仮想化に詳しいネットワークバリューコンポネンツの松本直人さんにお話をうかがうことで,クラウドと仮想化技術の本質に迫っていきたいと思います(写真1)。松本さんは仮想化インフラストラクチャ・オペレーターズグループ(VIOPS)のチェアを務めていらっしゃいます。

クラウドと仮想化の違いは何?

写真1●松本直人さん
写真1●松本直人さん

近藤:いつも不思議に思うんですが,なぜクラウドと仮想化っていつも一緒に取り上げられるんですかね?私は,いわゆる「クラウド」っていうのは,コンピュータとかが個々の機能を提供して一つの大きなサービスを作り上げているようなものだと思うんですけど。

松本:きちんと分けて考えれば,「クラウド」と「仮想化技術」は別物と思ってもよいですね。クラウドは,多くのコンピュータによって一つのサービスの集合体のようなものを提供してくれるわけですから,これ自身は「仮想化技術」とは無関係で,非常に抽象的なものなんです。

近藤:ということは,仮想化技術を使わなくてもクラウドは実現できると…?

松本:そう。別に仮想化しなくたっていいんです。

 ただ,沢山のコンピュータを使ったり,それらをネットワークでつないだり,冗長化したりといろいろしようとすると,物理的な機材だけで構築するにはとんでもないお金がかかるし,効率も良くない。仮想化技術をうまく使うことで,クラウドというものがコスト的にもサービス的にもうまく提供できるようになるというわけです。

 逆に言ってしまえば,仮想化技術を使わなければ,今あるような効率的なクラウド・サービスは構築できないということになります。つまり仮想化技術は,クラウド・サービスの基盤技術ということになるわけです。

近藤:なるほど,元々は別だけど,仮想化がなければクラウドは実現しなかったと。

松本:そういうことになりますね。

■変更履歴
今回話をうかがった松本 直人さんの会社名を間違えたため,修正しました。お詫びして訂正します。 [2009/06/23 21:00]