写真1●スペースフィッシュのオフィスは函館市臨海研究所内にある
写真1●スペースフィッシュのオフィスは函館市臨海研究所内にある
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 衛星の観測データを基に,カツオ,サンマ,スルメイカなどの漁場を予測するシステムの「トレダス」。漁師の経験と勘に頼っていた漁業活動を大幅に効率化できると注目されているこのシステムは,北海道大学大学院水産科学研究院の齊藤誠一教授らによって開発された。2006年に同教授は,システム開発を手がけた富士通などと共同で有限責任事業組合(LLP)のスペースフィッシュを設立。全国の漁業従事者に向けて,トレダスによる漁場予測情報を提供している(写真1)。

 サービス開始からほぼ3年を経て,トレダスが漁業の効率化だけでなく,燃料(重油)の燃焼に伴うCO2排出量を2~3割削減でき,環境負荷低減にも大きな効果があることがわかってきた。

 トレダスのシステム構成と提供するサービスの概要は次のようになる(図1)。

図1●トレダスのシステム構成
図1●トレダスのシステム構成
海洋探査衛星から送られてくる観測データをスペースフィッシュの解析センターで解析・分析し,海面水温やクロロフィル濃度などの画像情報に加工する。画像情報は,1日2回,衛星通信やインターネットを介して契約者に配信される。サービスの提供形態は2種類。衛星通信を使い,漁船に持ち込んだ専用端末によって受信する「OnBoardトレダス」と,インターネットを利用した「Webトレダス」がある。

 まず米国の海洋探査衛星「Aqua」と「Terra」から送られてくる観測データを北大水産科学研究院の屋上に設置された球形アンテナで受信する。この観測データをスペースフィッシュの解析センターで解析し,海面水温,クロロフィル濃度,海色潮目,海面高度,潮の流れなど9種類の画像情報に加工する(写真2,3)。さらにカツオ,サンマ,スルメイカ,ビンナガマグロの4種類の魚について漁場予測を行う。画像情報は,1日2回,衛星通信やインターネットを介して契約者に配信される。

 サービスの提供形態は2種類。衛星通信を使い,漁船に持ち込んだ専用端末によって受信する「OnBoardトレダス」と,インターネットを利用した「Webトレダス」がある。前者の端末にはGIS(地理情報システム)とGPS機能を搭載し,漁師は漁船の位置を確認しながら効率的に予測された漁場へとたどりつくことができる。

写真2●海面水温の画面
写真2●海面水温の画面
黒潮・親潮海域(サンマ・カツオ漁向け)の画面。海面温度を色の濃淡でわかりやすく表示する。画面中央付近のオレンジの横線で囲んだ領域は,トレダスがカツオの漁場に適していると予測したところ。
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写真3●クロロフィル濃度の画面
写真3●クロロフィル濃度の画面
海面の植物プランクトンが多い海域を緑色で表示する。潮の流れや水温潮目など他の画像データと重ね合わせることもできる。
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 従来から漁業従事者を対象とした情報提供サービスはあったが,海面水温を等温線で表した地図をFAXで送るというシンプルなもの。漁師さんはその地図を基に自分で漁場を予測し,探索しながら航行する必要があった。衛星の観測データを受信してからサービス提供までに5時間以上かかるのも難点だった。

 これに対しトレダスでは,衛星観測データを受信してから1時間ほどで漁場予測などの情報を配信する。「トレダスが予測したサンマの漁場に出かけたところ,1日で普段の3倍の15トンくらい魚が獲れたと,根室の漁師さんが大喜びで電話をくれた」と,齊藤教授は顔をほころばせながら話す。

 実際に日本海で操業しているイカ釣り漁船の航跡を3週間にわたってGPSで追跡した画像がある(動画1)。白く塗られた領域がトレダスが予測した漁場で,バルーンが漁船の位置。漁船が操業した場所と,トレダスが予測した漁場とが,ほぼ一致していることがわかる。

動画1●イカ釣り漁船の航跡をGPSで追跡した画像
白く塗られた領域がトレダスが予測した漁場で,バルーンが漁船の位置。予測漁場が移動すると,それに追従するように漁船が動いている。