2000年開業のめぐみクリニックは、5年目にして念願だった診療情報のわかりやすい開示を目的に電子カルテを導入し、インフォームドコンセントの向上を実現した。「パソコンが大の苦手」という塚田悦恵院長だが、「電子カルテと検査データを統合した医療情報システム環境の整備」は、診療業務の効率アップはもとより、患者に対する信頼感の向上、連携医師の信用度を高めることにも寄与している。

患者の納得のいく診療情報の開示に電子カルテは不可欠

待合室にはぬいぐるみやおもちゃを配したプレイルームを設けている
待合室にはぬいぐるみやおもちゃを配したプレイルームを設けている

 群馬県佐波郡玉村町で2000年に開業しためぐみクリニック。ピンクを基調とした建物にゾウとウサギのキャラクターをあしらった外観、待合室にはぬいぐるみやおもちゃを配したプレイルームを設けるなど、小児の患者を意識した配慮があちこちに見受けられる。というのも、同クリニックの患者は10歳以下が8割近くを占めており、「患者さんに緊張を与えない雰囲気づくり」を具現化したものと、院長の塚田悦恵氏は説明する。

 玉村町は群馬県の中心都市である高崎市や前橋市のほど近くに位置し、ベッドタウンとして以前から若い世代の夫婦の比率が高く、県内で最も平均年齢が低い地域という。耳鼻咽喉科は、もともと小児の患者が比較的多い診療科だが、周囲の住民特性が特に同クリニックの小児患者が多い理由のひとつでもある。「小児科と同様、子供の患者さんの場合、母親との良好な関係を築くことがとても大事で、母親の納得のいく病状説明が必要不可欠です。患者さんの意識はこの10数年間で大きく変貌し、診療情報の開示が非常に重要になったと感じています」。塚田院長はこう指摘し、それが診療情報を電子化しようとした最大の理由だと強調する。

 耳鼻科の場合、耳や鼻の内部の状態は医者しか把握できないため、病状説明の際には電子スコープの画像を患者に見せることが重要となる。塚田院長は、開業当初からいずれは画像ファイリングや電子カルテの導入をと考え、患者にわかりやすい診療情報の開示を目指したいと思っていたという。

めぐみクリニックの塚田悦恵院長
めぐみクリニックの塚田悦恵院長

 画像ファイリングシステムだけでも、画像を用いたわかりやすい説明は可能だが、電子カルテと連動することにより、素早い対応とより納得のいく情報開示ができる、と指摘する。ただ、開院当時は使い勝手の良い電子カルテがまだなかったこと、それに加えて「実はパソコンが大の苦手。“パソコン音痴”の私に使える電子カルテはないだろうと思っていた」(塚田院長)と、当初は導入を見送っていた経緯があった。

 だが、開業時に導入したレセプトコンピュータが2005年に更新を迎えることを機に、1年ほどかけて電子カルテの導入を検討し、レセコンのリプレースと同時に導入にこぎつけたという。

パソコン音痴でも使えるわかりやすい操作性に納得

 システム選定では、計4社の製品をデモを含めて検討した結果、導入決定に至ったのがNTT東日本の診療所向け電子カルテシステム「Future Clinic 21」だった。その選定理由は主に、「連携するレセコンの機能仕様と電子カルテ部分の操作性」(塚田院長)の2つが決め手だったという。

 実は検討を開始した間もない頃、「診療所向け電子カルテのシェアがトップ」という理由から他社の製品を導入しようと考えていた。ところが、その電子カルテのレセコン部分が群馬県の公費負担請求に対応できないことがわかり、断念したという。

 「児童の社会保険適用に際して、自己負担部分が公費負担になる場合、患者ごとの入力はできても月末締めのときに総括できない仕様であったため、その集計作業を手作業で行う必要がありました。ことに群馬県は公費負担の仕分が全国で最も複雑といわれ、その作業負担を医事担当者に負わせるわけにいきませんでした。Future Clinic 21と連携する日医レセプトソフトのORCAはその点、問題がなかったことが選定理由の1つでした」(塚田院長)。

 さらに塚田院長は、ORCAは導入コストを抑えられる上に、診療報酬改訂時のバージョンアップもほとんど費用がかからず、以前に利用していた三洋電機のレセコンと比較して、年間で約5割のコスト削減に繋がったという。

電子カルテシステムのユーザーインターフェース画面
電子カルテシステムのユーザーインターフェース画面
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 もう1つの選定の決め手となったのが、電子カルテ部分のユーザーインターフェイスのわかりやすさと画面展開の速さだった。「カルテ画面を見てわかるように、『診断』『処置』『処方』『検査』など診療プロセスの項目が、一画面の中のタブにすべて日本語で表記されていて、どこに何があるかが一目瞭然。意味がわかりにくいアイコン表示や、どこに何があるのかわからないメニュー表示は、パソコン音痴だった私にとって、それだけでも大きな壁でした」という。アイコンやウインドウ操作に不慣れであっても、直感的に使えることが最も優れたポイントだと強調する。一般の電子カルテは何をするにもウインドウを開き、入力したら閉じる操作がつきまとう。塚田院長は、そうした1回、2回のクリックが診察中には煩雑な操作になると指摘する。カルテ画面のわかりやすさは、説明用ディスプレイを隣で見ている患者や親御さんにさえも簡単に理解できる仕様だという。

電子カルテ画面は、こどもでも理解しやすい優しいビジュアルになっている
電子カルテ画面は、こどもでも理解しやすい優しいビジュアルになっている

 その反面、導入初期に最も苦労した点は、Future Clinic 21が耳鼻咽喉科のクリニックとして、めぐみクリニックが初めての導入ケースだったことに起因するものだった。

 病名、症状、処方など事前に項目をテンプレート化してカルテ入力を支援。画像を張り込んだカルテ画面は、患者への納得のいく病状説明に寄与している。

 「導入契約時になって、耳鼻咽喉科での導入実績がまったくなかったことが判り、パソコンの苦手な自分が耳鼻咽喉科第一号ユーザーになるのは不安でした。耳鼻科特有の病名、カルテ記入で大きなウエートを占めるシェーマは、サンプルが全く無かったので、すべて自分で用意しました。幸い絵を描くのが好きなので、筆ペンですべてのシェーマを自分で描き、それをスキャナで取り込んでひとつひとつ作成していきました。処方や検査の項目においても利用できるものがほとんどなく、そのテンプレートを手探りで作るといった、試行錯誤の連続でした。嬉しいことに、今では耳鼻科ユーザーもだいぶ増え、耳鼻科のサンプルも充実してきました。今は自分でスタンプと呼んでいるテンプレートを様々にカスタマイズして、楽しくカラフルに、そして効率的に記入できるよう工夫しています。」(塚田院長)と、当初の苦労を振り返る。