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社会保障カード、夏にも実験 報告書に統一的番号の創設盛らず(47NEWS:47都道府県52参加新聞社と共同通信のニュース・情報・速報を束ねた総合サイト、4月16日)

【ニュースの概要】政府が2011年度の導入を目指している社会保障カードに関する厚生労働省の有識者検討会が16日、基本計画の報告書をまとめた。焦点だった年金、医療、介護の各制度にまたがる統一的な「社会保障番号」の創設には否定的で、計画に盛り込まなかった。


◆このNEWSのツボ◆

 社会保障カードの実験が夏にも始まるようだが、よく分からない点が多い。報道によれば、次の通りだ。

  • 社会保障カードの実験を夏にも開始する
  • 個人情報の一元管理には、プライバシー侵害のおそれがあるため、統一番号の導入は行わない
  • 第三者の不正利用を避けるため、公開鍵暗号方式によるデータ保護を図る
  • ただし、緊急時で公開鍵の認証ができないような場合に備えて保険医療番号(仮称)を導入し、券面に記載する

 もともと、社会保障カードの導入構想が登場したのは、2007年で2年も前のことである(参考記事)。しかし、その時の説明では、「健康情報を電子的に活用する仕組みが出来ると、骨折や血圧などの医療情報を、主治医と介護支援者が必要に応じて共有できるなど、両方のサービスを受けている人にもメリットが生まれる。個人データの集積と分析により、制度改革による年齢・地域別の影響も的確に把握できるようになり、政策立案にも役立つ」とされていた。

 しかし、統一番号を振らないということは、おそらく、このカードを利用する医療保険や介護保険、年金などのデータは別々に管理され、それぞれのシステムに対しては、独自の仕組みでデータ・アクセスを行うようにする…ということだろう。

 しかし、そうなった時に、当初想定されていたような利用の利便性は確保されるのだろうか? また、公開鍵暗号を使った認証の仕組みを使うということは、カード認証のための機器やシステムの導入に、それなりにコストがかかるということであり、小規模の医療機関や介護事業者が対応できるのだろうかという疑問も残る。

 こうした不便を解消するために、券面に簡易番号を記載するということにしたのだろうが、結果として認証システムの利用が進まず、簡易番号による認証が多数を占めるような場合には、今度は、逆に、不正利用の可能性が、むしろ高まることにもなりかねない。

 「国による個人情報の一元管理」という、姿の見えない脅威に対する批判は、住基カードの時にも指摘され、結果として、導入後5年をすぎても利用度が5%前後で低迷する中途半端なシステムに巨額の公費が投入された。先進国の多くが、社会保障も含めた情報を統一した番号で管理しているが、情報漏えいの不安を解消するために、第三者機関を設けて恒常的に監視するなど、各国とも工夫をしているそうである。制度ごとにバラバラの番号を使ったシステムを作れば、システム投資は重複し、当初期待された利便性も限定的なものに留まるのではないか?

 住基カードの経験を生かした、「真に活用されるシステム」の導入のために、実験の過程でもう少し突っ込んだ議論が望まれるのではないだろうか。

安延 申(やすのべ・しん)
フューチャーアーキテクト社長/COO,
スタンフォード日本センター理事
安延申 通商産業省(現 経済産業省)に勤務後,コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO,スタンフォード日本センター理事など,政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。