ジョイント・イノベーション・ラボ(JIL)の活動が本格化してきた。JILは2008年8月に携帯電話端末を利用する新しいテクノロジーやアプリケーション・サービスの開発を目的に,ソフトバンクと中国のチャイナ・モバイル,英Vodafone Group Plcの合弁会社として設立された。

 現在の活動の主な目的は,携帯電話機で稼働するウィジェットを普及させることである。ソフトバンクモバイル 執行役員 事業戦略推進本部 本部長の矢吹雅彦氏は,「GoogleのAndroidやNokiaのS60に象徴されるように,携帯キャリア以外の企業が携帯電話を使ったサービスを提供しようとしている。JILの参加企業がそれに危機感を持っていることが,活動の背景にある」と説明する。

 活動内容は,(1)ウィジェットが携帯電話機で稼働するためのミドルウエアの開発(共通規格の策定),(2)外部のソフトウエア開発会社がウィジェットを開発するために使うSDK(Software Development Kit)の開発,(3)ソフトウエア開発会社が開発したウィジェットを登録するシステムの開発,(4)登録されたウィジェットをユーザーが購入する際の認証機能や課金機能を持つシステムの開発,である。

 JILのメンバーは毎週の電話会議や月2回程度の直接面会する会議で,これら開発対象となっているソフトウエアの仕様を検討しているという。まだ公開できる開発実績はないが,「2010年3月末をメドに,ユーザーにウィジェットの稼働環境と実際のウィジェットを届けるスケジュールで動いている」(矢吹氏)という。

 2009年4月1日には,JILに米Verizon Wirelessが加わることが発表された。これにより,JILに参加する4社が持つ顧客数は10億人を超えることになる。矢吹氏は「Verizon WirelessがJILに参加することは,JILの出資者であるソフトバンクとソフトバンクモバイルのユーザーの両方にメリットがある」と説明する。例えばソフトバンクのメリットは,ウィジェットの動作環境や開発環境を開発するコストが各企業で分散されて,少なく済むことである。さらにJILのメンバーに日本と欧米中の大手携帯キャリアが揃うことで,ウィジェットの規格決定において発言力が増すことにもつながる。

 ユーザーのメリットは,ウィジェットの選択肢が広がることだ。ウィジェットを開発する企業は,ユーザーが多いプラットフォーム向けにウィジェットを開発したい。Verizon Wirelessが参加することで,JILのSDKを使ってウィジェットを開発したい企業が増え,結果的にユーザーが利用できるウィジェットが増えるという考え方である。

 矢吹氏は,「現在,ユーザーに通話時間を長くしてもらってARPUを上げるのは限界に来ている。携帯電話機のユーザーにも,ウィジェットの開発者にも魅力的な環境を作ることでウィジェットの利用機会を増やし,データ通信によるARPUの増加を目指したい」と語った。