日立製作所 環境本部 主管技師
IEC 環境配慮設計WG 国際主査
市川 芳明

 今回からはいよいよEuP指令の実施措置(IM)について解説していく。現時点で4つの実施措置が発行されている。2008年12月18日に「待機電力とオフモード」,2009年2月5日に「単純セットトップボックス」,2009年3月24日に「家庭用照明」と「蛍光灯,高輝度放電ランプおよびそれらの安定器,発光体」――が,それぞれ矢継ぎ早に発行された。

 IT業界の読者にとっては「待機電力とオフモード」の実施措置の内容が気になるところだろうが,今回はまずはじめにテレビ(Lot5)を取り上げることにする。実施措置とはどのようなものであるかを理解するためには,筆者自身もかかわったテレビのPreparatory Study(事前調査)の事例からはじめることがふさわしいと考えるからで,その経緯をたどると,EuPとビジネス競争との深いかかわりを理解することができる。そして次回は,Preparatory Studyの結果を受けて公表された実施措置案(まだ案の段階であるが,ほぼ固まっている)について紹介する。その後,「待機電力とオフモード」などの事例を順次紹介していく。

Preparatory Studyは重要な“判断材料”

写真1●Dr.Nissen(左)とDr.Stobbe(右)
写真1●Dr.Nissen(左)とDr.Stobbe(右)

 前回でも触れたように,Preparatory Studyは,EuP指令の実施措置を策定する際の最初のプロジェクトである。EU委員会の担当部局から入札が出て,複数のコンサルティング会社が応募する。当然受注をめぐって競争があるが,テレビ(Lot5)の場合は,Fraunhofer IZMというベルリンにある大手シンクタンクが受託した。担当者はDr. Lutz StobbeとDr. Nils Nissenである(写真1)。私はこのお二人と,このPreparatory Studyに参加することで知り合いになって以来,大変親しくさせていただいている。

 特にDr. Stobbeには日本を何度も訪ねていただき,同僚の技術者との対話をしていただいたり,あるいは彼らがオーガナイズするワークショップで私が招待講演を依頼されたりするなど,「エコデザインのエキスパート」仲間としての付き合いが続いている。

 さて,Preparatory Studyはどの場合も決まった手順で進められる。これらは,次の8つのタスクとして定められている。

Task1 定義
Task2 経済分析
Task3 消費者行動
Task4 既存製品の技術的分析
Task5 基準製品(Base Case)の環境影響分析
Task6 最先端技術の分析
Task7 改善余地
Task8 提言

 このうち,定義(Task 1),既存製品の分析 (Taks4, 5),先端技術の分析(Task 6)は特に重要だ。どの製品が具体的に指定されるかが決まり,具体的な要求事項を検討する材料が示されるからだ。しかし,実際の実施措置はあくまで欧州委員会が決める。このPreparatory Studyは欧州委員会への判断材料を提供しているに過ぎない。その意味で,参加する私たちが欧州委員会に重要な情報を提供することもできる反面,最終的な法規制を決めるにいたるまでには,さらなる政治的な紆余曲折があるというややこしい一面がある。

 テレビの場合,最終報告が出たのが,2007年の8月である。その後1年半が経過し,まだ実施措置の正式な発行はなされていない。すなわち,Preparatory Studyの後の働きかけも重要であることを物語っている。日本の企業はPreparatory Study終了後は一安心してしまう場合も見受けられるが,引き続き(欧州の)業界団体を通じたロビーに専念するべきだと思う。