脇山 真治
九州大学 大学院芸術工学研究院教授

プレゼテーションの成否は、準備段階の「P2=情報収集と準備 Preparation」で決まる。聞き手に関する情報、会場の様子などを事前に把握し、メンバー全員でリハーサルすることが重要になる。本番で起こり得ることを冷静に予見し、可能な限りの対処策を打っておく。最高のパフォーマンスを実現するための努力を怠ってはいけない。

 相手を知らずして、プレゼンテーションの計画は立てられません。どのような場所で発表するかが分からなければ、機材や段取りについて考えることもできません。聞き手や会場の条件確認などと同様に、リハーサルも事前の準備として欠かせないものです。今回は事前に「どんな情報を集めるのか」「やるべきことは何か」について考えます。

聞き手に関する情報を把握しているか

 プレゼンターの話し方や言葉の難易度、説明の補助資料をどのようにデザインするかは、誰に対してプレゼンするかによって変わってきます。プレゼンの内容にある程度の予備知識を持っている聞き手だとすれば、専門用語の解説は不要です。逆に専門外の人たちであれば、用語解説を含んだプレゼンが求められます。どんな人たちに話をするのか、次の2点を確認しましょう。

 一つ目は、聞き手が属する組織の慣習や特殊性です。組織によっては流行語や略語、カタカナ言葉などを嫌うケースがありますし、プレゼンターにある程度の上位者を求める場合があります。専門家集団に対しては、相応の知識を得た上で臨みましょう。にわか勉強で説明していると信頼性を疑われます。

 このほか、相手企業(団体)の理念、創業からの年数、取引銀行の系列、海外展開の状況、社員の服装の自由度などが、攻め方の基本方針を決定する上で大切な情報となります。

 国際的なプレゼンならば、相手国の歴史や文化、宗教戒律、食習慣、国民気質などを調べるのは当然です。こうした情報収集を怠ると、勢いで話したことが「約束」と認識されたり、冗談が「侮辱」ととられることもあり、トラブルの原因となります。

 二つ目はプレゼンの結果を左右する、いわゆる「キーパーソン」の情報です。プレゼンでは特に注意すべき相手は最も影響力のある人物です。多人数を対象にした講演会ではあまり問題になりませんが、企画提案のような場面では、キーパーソンの情報が重要になります。

 詳細な個人情報の入手は大変ですし、管理にも神経を使わねばなりません。しかし出身地や出身校、し好品、趣味や特技などのほか、友人関係、愛読書、行きつけの店、さらには人生訓、座右の銘、尊敬する人物、経営理念といった精神的側面に迫る情報を得ることができれば、プレゼンの計画立案に非常に有効です。企業内の人間関係、仕事への情熱、地位への執着、上昇志向、自己主張の度合い、几帳面さなどが加わるとさらによいでしょう。

 個人情報を収集するのは、プレゼンに欠かせないメッセージを押さえた上で、やって(言って)いけないこと、あるいは情緒的な揺さぶりのポイント、信頼感を得る一言といった説得のための要点を知り、計画に反映させるためです。

 企業や業界には独自の習慣があり、個人にもビジネススタイルがあります。「プレゼン資料は必ず事前配布する」「要約したA4判1枚を用意する」ことを求める人もいれば、部屋を暗くしたスライド上映を嫌う人もいます。相手によってはプレゼンの手法自体を変更せざるを得ない場合もあるのです。相手を知らずして計画を立案することは非常に危険です。

プレゼン会場の情報はつかんでいるか

 プレゼン会場の情報は、準備物や発表手法に制約を与えるものです。これによってプレゼンターの心構えも変わってきますので、できるだけ正確な情報を収集して下さい。

 最初に会場の空間に関する情報を押さえましょう。部屋の面積、天井の高さ、窓(ブラインドの有無)やドア位置、スクリーンの位置とサイズなどを確認します。パソコンを使ってプレゼンするなら、少なくともスクリーンと聞き手の最後列までの距離を知りたいところです。

 次は備品や設備の情報です。天井灯のスイッチの場所、壁のコンセントの位置と持ち込み機材までの距離、延長コードの長さ、マイクや手元の明かりの有無、パソコンの設置場所、接続ケーブル、ポインター、模型を置く場合はテーブルの用意など、使用する可能性のある設備や備品はチェックリストで確認しましょう。

 特に相手の機材を使用するときは、事前にリハーサルできないこともあります。相手がどんな機材を持っているか、設備・備品の情報を確実に入手しておきます。

 聞き手との位置関係も重要です。会場での座席配置、相手の人数、プレゼンターと聞き手の距離、チームメンバーの着席位置などをチェックします。いずれも資料配布の段取り、プレゼンターの立ち位置、視覚資料の大きさや提示の仕方などを決定するヒントになる重要な情報です。

 これらによってプレゼンターの声の大きさ、視覚資料の提示の仕方、スクリーンサイズや文字の大きさなどが決まります。