脇山 真治
九州大学 大学院芸術工学研究院教授

プレゼンテーションの訓練には、テレビ番組の「テレビショッピング」や「国会中継」「ニュース」などが役立つ。話の流れや情報量などが分かりやすくまとめられているからだ。他人のプレゼンをよく観察し、問題点を整理すると、どう改善すればいいかが見えてくる。まん然と見ているだけでなく、貪欲な姿勢で取り組もう。

 今回は「P5=Practice」、つまりプレゼンテーションスキルの日常的な訓練方法や上達のヒントを解説します。プレゼンのスキルアップには、自ら体験的にトレーニングするだけでなく、他の事例を見たり批判したりするといった行為も有効です。

 他人のプレゼンに立ち会う機会があるなら、まん然と見るのはやめましょう。参考になる要素を何でも取り入れようという貪欲な姿勢で、内容を分析したり観察したりすることが重要です。

「テレビショッピング」に学ぼう

 各社からプレゼンの解説や指導を狙ったDVDが販売されていますが、こうした教材はやや現実味と緊張感に欠ける点があるようです。登場者の演技を通じた解説教材としての限界でしょう。

 私はプレゼンの教材として「テレビショッピング」を推奨しています。通信販売のための番組ですが、商品の説明方法は立派なプレゼンであり、売り上げ(電話申し込み)に直結する緊張感を併せ持ったリアルな教材といえます。

 出演する多くのデモンストレータは、解説者や営業担当者であると同時に、演技者でありプロモータという側面を持っています。プレゼンターとして出演者を見ると、プレゼンに求められるさまざまな要素が分かってきます。

 ダイヤのネックレスを販売する番組を例にとって沿って説明しましょう。

 テレビショッピングを見ると多くの場合、まず販売者の説明にかぶるようにネックレスを身に着けたモデルが登場する場面が出てきます。その後、ダイヤを顕微鏡にセットした拡大映像をインサートし、サンプルをゆっくりと回転させながら魅力的な光沢とカットの特徴を見せる、といった具合です。

 説明者の手にはダイヤのランクを図示したフリップボード(解説のためのパネル)があり、最高級品質であるとコメントします。さらに「今回のダイヤは説明者が自ら海外の工房に出向き、買い付けてきた」と話します。現地の様子が映像で流れ、そして価格は○○万円と言い切ります。すると、「オーっ」というどよめきと拍手が効果音として入ります。さらに同じ値段でイヤリングも買えるとたたみかけ、司会も含めて場内が大いに盛り上がるというシーンで終わります。

 テレビショッピングはとても密度の濃いプレゼンです(図1)。実際の商品を使った実演、データによる優位性の提示、専門家によるコメントの挿入、解説図や映像による補完説明、オプションと価格などいくつもの要素が詰まっています。

図1●「テレビショッピング」はプレゼンの参考になる
図1●「テレビショッピング」はプレゼンの参考になる

 いずれの情報提示も「テレビ」ゆえの演出を加味しているとはいえ、商品説明のタイミングや強調の仕方、視聴者への問いかけ、同意の求め方など、文字通りプレゼンの生きたテキストとして参考にすべき点がいくつもあります。しかもテレビ番組には厳しい時間の制約があるので、冗長に進めると時間内には完了しません。時間管理も参考にしたいところです。