脇山 真治
九州大学 大学院芸術工学研究院教授

プレゼンテーションでは、プレゼンターが聞き手に与える第一印象が極めて重要である。信頼できる人物と評価されれば、プレゼン内容もポジティブにとらえられやすくなる。プレゼンターの顔つきや声、服装といった外見のほか、話し方にも注意する。チームメンバーがプレゼンターの姿を客観的に見ながら修正を加える必要がある。

 今回はプレゼンテーションで重要な「五つのP」のうち「P3:Personality」を解説します。Personalityとは、プレゼンを実行するプレゼンターの資質や能力にかかわることです。

 プレゼンターは提案書の単なる「説明役」「話し手」ではありません。プロジェクトにかかわるすべてのスタッフの代表として、前面に立ってプレゼンを統括するという重要な役目を担っています。

 聞き手がプレゼンターの説明に納得し、前向きな姿勢を示したとき、プレゼンは受注獲得に向けて大きく動き出します。聞き手に納得してもらうために、プレゼンターは熱意を持って対処しなければなりません。

 提案書は合理的で無駄のない「書き言葉」で埋まっています。クールに見える提案書も、プレゼンターの言葉を介することで、情熱的だったり緊張感を伴ったり、ときにはユーモアに満ちた内容に変貌したりします。魅力的な提案だと聞き手が感じるかどうかは、すべてプレゼンターの手腕にかかっているのです。

 聞き手から信頼を得たプレゼンターほど、強い存在はいません。「肝機能に問題があるので酒を控えるように」と実績のある医者が助言すれば多くの患者は従いますし、「このワインがお薦めです」と有名なソムリエが言えば買ってみたくなるでしょう。聞き手が正しく詳細な情報を欲しいと要求しているとき、信頼を得ているプレゼンターの説得は最大の効果を生むのです。

プレゼンターに求められる資質と能力

 普段から、得意先との打ち合わせや社内の企画提案、上司への報告、会議など広義のプレゼンを聞く機会は多いでしょう。優れたプレゼンターの話を聞くと、ある種の能力が備わっていると感じたことはないでしょうか。

 「あの人のプレゼンはうまい」「魅力的なプレゼンだ」と思ったときは、おそらく次のような五つの側面を感じているのです(図1)。

図1●プレゼンターに必要な五つの能力
図1●プレゼンターに必要な五つの能力

(1)予測と判断の的確さ

 プレゼンの進行で特に重要なのは、刻一刻と変化する状況を敏感に感じて予測する力と、瞬間的かつ的確な判断力です。プレゼンは必ずしもシナリオ通りに進行するとは限りません。想定外に展開することもあります。

 「前置きを飛ばしていきなり具体案の説明を求められる」「提案書は既に目を通しているということで、いきなり質問が出てくる」「映像資料は後で見るので途中で止める」など、聞き手のわがままな要請を予測し、戸惑うことなく対応しなければなりません。

(2)メッセージを加工する力

 メッセージを効果的あるいは劇的に伝えるための構成上の工夫が、提案には求められます。これがメッセージの加工力です。プレゼンの流れを適切に組み立てたり、結論を明かすタイミングを調整したりするといった、ち密な計算が必要です。映像などの視覚資料を準備することが必要なこともあるでしょう。

 例えば、詳細な数値やデータに裏打ちされたメッセージには、客観性・合理性から生まれる強い説得力があります。どんな聞き手であれ、一定以上の共感を持たせることが可能です。

 一方、聞き手との間に良好な人間関係ができている場合には、詳細なデータをあえて出さず、システムの完成像といった感覚的な部分をアピールしながら同意を得る方法があります。

 結論を話すタイミングも一つではありません。聞き手の関心度が低い場合や聞き手の時間が限られるときは、最初からメッセージを伝えてしまう「冒頭結論型」で構成するのが望ましいでしょう。