脇山 真治
九州大学 大学院芸術工学研究院教授
今回から5回にわたり、ソリューション提案を成功させるプレゼンテーションスキルを解説する。プレゼンで重要な要素は、話し方など小手先のテクニックではなく、いかに聞き手に配慮しているかである。このためには「計画と構成」「情報収集と準備」「プレゼンターの能力や資質」「話す技術、見せる技術」「日常的な訓練」のスキルが求められる。
「今回から5回にわたってプレゼンテーション講座を担当することになりました脇山真治です。プレゼンテーションは、多くのセミナーが開催されたり指導書が書かれたりしている、ビジネスパーソンの関心事です。私より優れた専門家も多く、ふさわしい先生方がいらっしゃると思います。その点、私の講座が読者の皆さんに満足いただけるかどうか不安ですが、ともかく連載をスタートさせましょう」─。
プレゼンの冒頭で、みなさんはこのようにあいさつをしていないでしょうか。自信なさげなコメントを聞くと、不快感さえ覚える参加者が出る可能性があります。「私よりもふさわしい先生方がいらっしゃる」ならば、聞き手は適任者をほかに選んでほしいと思うでしょう。
あいさつはプレゼンの主題そのものではありませんが、これから始まるプレゼンへの期待感を高め、聞くに値するか否かを判断する大切なメッセージを含んでいます。プレゼンを無難にこなしたいと思うあまり、暗に失敗を想定したり聞き手の満足度のレベルを下げたりするようなコメントは、絶対に避けなければなりません。聞き手を前にして発する最初の言葉こそ、慎重かつ意気込みを込めて選んでほしいものです。
本連載では、コンピュータシステムを販売する営業の方を想定し、プレゼンのスキルアップに必要な基本を習得することを目的にしています。
プレゼンは一般に、日本企業より海外企業の経営者がうまいとされています。例えばアップルのCEO(最高経営責任者)であるスティーブ・ジョブズ氏の魅力的なプレゼンは高く評価されているようです注1)。こうした経営者のプレゼンを見ると、基本を忠実に実践していることが分かります。
冒頭で述べた「あいさつ」も、基本的な例といえるでしょう。プレゼンの評価はすべて聞き手に委ねられていますから、相手の立場を尊重し、あいさつの段階から期待感を高めるのは、当たり前のことなのです。
五つの「P」が総合力をアップさせる
プレゼンのスキルアップに必要な基本項目には、図1に示すような五つの項目があります。

プレゼンのスキルアップというと、多くは技法やテクニックといった側面から語られます。確かに、即効性があり効果が見えるという意味では有効です。しかしプレゼンの総合力を高めるには、上記の5項目すべてで実践力をつけなくてはなりません。
私はプレゼンのスキルを「プレゼンテーション関数」という言い方で表しています。すなわち、プレゼンテーションの総合力:P=f(P1、P2、P3、P4、P5)となるのです。例えば、P4の「話す技術、見せる技術」の構成要素だけでも、言葉使いや文字の大きさ、資料のデザイン、マイクの使い方などを挙げることができます。P1~P5となると膨大な構成要素になるでしょう。
総合力を高めるためにも、連載では各回ごとにP1~P5の構成要素やポイントを取り上げ、最終回ではコミュニケーション力をつけるための要件を総括します。今回は、P1=計画と構成(Planning & Program)について考えましょう。