IT(情報技術)の世界には25年間かかわっており、2005年にティンバーランドで暫定的なCIO(最高情報責任者)になり、2006年に正式なCIOに就任した。

 現在1年半にわたって手掛けているのは、「ビジネス・インテリジェント・プログラム(BIP)」というデータベースの構築だ。財務、販売、製品、顧客管理などについてのデータを集めて、ティンバーランド社員が必要な時に使えるデータベースにする。さらにデータ分析機能も加えて、社員が現在のビジネスを遂行したり、そのビジネスの成長の可能性について考えたりできるようにする。

 プログラムの完成は2010年だが、既に成果も表れている。例えばIR(インベスター・リレーションズ=投資家向け広報)部門に投資家から、特定の製品が現在までにどのくらい売れていてどのくらいの利益マージンがあるのか、という問い合わせが入ったことがある。担当者はBIPを使って10分以内に回答することができた。

使いやすさには非常に心をくだいている

 BIPの例にみられるように、使いやすさという点には非常に心をくだいている。ありがちなのは、ベストの技術だと思って導入したのに、利用する社員が「扱いが難しい」と思って使わなくなってしまうというケースだ。社員が新しい技術に萎縮してしまうのではなく、「ITがあると便利だ」と信頼してくれることが大切だと思う。

 そういう発想に立って、「マテリアル・データベース」も開発した。これは現在、当社の人気商品である靴のデザインに使っている。デザイナーが靴の原料について、コスト、見た目、品質、環境への配慮といった点から、どんな原料を組み合わせ、購入することができるのか、データベースを使うと一目で分かるようになっている。デザインを優先するとコストがかかり、コスト削減を優先するとデザインに限界が出てくる、という状況下で、両方を満足させられる原料がないか、ベストな選択ができる。

ロザリー・ハーメンス氏
ロザリー・ハーメンス氏
1918年に、ネイサン・シュワーツがマサチューセッツ州ボストンでブーツを作り始めたのが同社の原型。55年にアビントン・シューカンパニーとして創業し、78年にティンバーランドとなった。本社はニューハンプシャー州。2007年売上高は14億4000万ドル。社員数は5400人。完全防水のレザーブーツなどで知られる

 当社はアウトドア用の衣料品を手掛けているので、環境破壊をなるべくしないようなIT利用を常に考えている。例えば、本社や配送センターはソーラーシステムによって電力を得ている。このほか、ITチームが環境保護のために社内で率先して実行しているのは、次の3つだ。1つは、仮想ハードウエアの割合を増やし、データセンターでの消費電力を削減すること。2つ目は、社内で両面印刷を奨励することで、現在は5割弱が両面印刷となっているが、これを100%にする。3つ目は、電力消費がより少ないパソコンを購入することだ。

 CIOとして最も大事なことは、技術屋として働くのではなく、ビジネスパーソンとして機能することだ。ビジネスの成長のために、経営チームが使う言語をよく理解したうえで、どのようなITが必要なのかを考えるバランス感覚が備わっていないといけない。また、私たちITチームが提供するITサービスは、社内の限られた小さなグループのためにあるのではなく、社員全員のビジネスをサポートすべきである。新しい技術の導入を優先したが故に、一部の社員しかその新たなITの価値を享受できないという事態があってはならない。

 ITチームは現在90人から成るが、これを段階的に120人にしていきたいと考えている。慎重にIT投資を進め、ITチームの中のニッチな需要を満たすための人材を選ぶ。さらに、コンサルタントも増やしたいと思う。グローバルに存在する店舗のPOS(販売時点情報管理)システムのグレードアップも計画している。

 ティンバーランドの中で、ITが社員や取引先を助ける部分は近年飛躍的に拡大している。例えば小売店向けに作った「注文システム」には、97%の小売店から「満足している」という反響をもらい、大変手ごたえを感じている。

 現在は世界的に不況であり、逆境にあるといえる。だが、ITを使った様々な社内外向けのサービスの信頼性を高め、より柔軟で効率のよいものに育て、データをより早く有効に活用できるように、慎重さは欠かせないがIT投資を怠ってはいけない。むしろ逆境だからこそ、効率化を進めるための良い知恵が生まれてくると思う。

ロザリー・ハーメンス氏
米ティンバーランド副社長兼CIO
米コンパックや米IBMに勤めた後、米ハーメンス・アンド・アソシエーツを創業してITコンサルティング事業を展開。また、米オレゴン大学で社会学を専攻後、米エール大学で経営管理科学を専攻し、決定行動学の修士号を取得している。