起点は「我流を壊す」

図2●TISが「TISセールスカレッジ」(TSC)で実施した育成策
図2●TISが「TISセールスカレッジ」(TSC)で実施した育成策
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 「我流の営業プロセスを壊す」作業を、アラサー自身に何度も繰り返させる。このやり方で、何人ものアラサーを現場のリーダーにTISは育てた(図2)。

 部門長の推薦を受けた10人のアラサーを、「TISセールスカレッジ」(TSC)に入門させた。目的は「対人関係の構築力や提案営業のスキル、リーダーシップを兼ね備え、TIS全体の営業力強化の中核になれる人材」を作り上げることだ。

 TSCでは参加メンバーに、思い込みを正す機会を何回も与えた。なかでも、カリキュラムの2年目に実施した「顧客からの360度評価」が目を引く。

 360度評価の内容には、例えば「自社で扱っているサービスやソリューションに関する知識や、ITスキルは十分か」 「約束の順守、クレームへの迅速な対応など、営業を進めるうえで基本的な行動を取っていたか」といった営業の基本行動を問うものがある。さらに「ビジネス環境や経営方針、組織風土を理解しているか」「業務課題や経営の潜在的なニーズを的確に把握し、見える化する行動ができているか」など、より高度な提案スキルを測るための質問もある。こうしたことを、参加メンバーが担当している顧客の担当者から聞き出した。

 1年目には、360度評価に先駆けて参加メンバーが共同で、商談の鍵になる営業プロセスを150項目に分類。各項目ごとに達成度を自己評価し、自分自身の課題を認識させた。3年目には、経営層もTSCの“講師”になった。TISの藤宮宏章代表取締役社長が、TSCの参加メンバーと半日のディスカッションに参加。一人ひとりのメンバーは実際の案件についてアクションプランを発表した。藤宮社長は「このタイミングで細かい技術について話しても、顧客の経営陣にはピンとこない」「この場面では、あえて顧客に“ダメ出し”するくらいのほうが説得力があるぞ」などと厳しく指摘した。

 こうした活動を経て、参加メンバーは成長した。TSC1期生の小林氏は「以前は自分の仕事をこなすことに精一杯だった。TSCを通じて“周囲をどう巻き込めばやりたいことを実現できるか”を考えながら行動する習慣が身に付いた」と言う。同氏は現在TIS子会社に出向し、中国市場という新しい舞台で、営業や企画開発のけん引役を担っている。

 「他のメンバーは、それぞれの所属部門を代表する新規案件を獲得してきたり、部門全体の中期的な事業戦略の立案にかかわったりしている。TSCの入門前とは別人のようだ」と、TSCの運営を担当する営業推進本部営業企画部の川口利恵子主査は話す。

 2009年6月に第2期生を迎えるTSCでは、部門長の推薦だけでなく自薦も受け付けることにした。1期生の姿を目にして、志望者が増えているという。

営業力を数値化し言い訳させない

 実際のシステム案件での営業活動を、事細かに採点する。これをアラサー教育の起点にして、全社に展開しているのが伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)である(図3)。独自の採点シートを使った研修を2007年から本格化し、これまでに全体の約半数となる450人以上の営業担当者が参加している。

図3●CTCは営業担当者の商談活動を評価するための採点シートを使って、アラサーを鍛えている
図3●CTCは営業担当者の商談活動を評価するための採点シートを使って、アラサーを鍛えている
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 キーパーソンへのアプローチなどの営業プロセスを担当者が○か×でチェックし、商談管理や受注前審査に使っている企業は多い。だがCTCでは「実績や顧客との信頼感」や「顧客の企業文化への適合性」など40項目にわたって4段階で採点。さらに、同じ案件を担当しているSEも営業担当者の行動を採点し、結果を突き合わせて課題を洗い出す。

 採点シートの結果は、各事業部門のトップも共有している。社内研修とOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じて、採点シートで把握した課題の克服に取り組む。

 「ある程度経験を積んだ中堅営業に対しては、頭ごなしにしかるよりも、本人が抱える課題が何かを客観的に示すほうが効き目がある」と、CTCの岡田俊樹人事総務室人事部人材開発課課長は話す。「自分の強みと弱みを客観的に認識することの重要性を現場の営業部長やマネジャーが強く感じて、研修の一環として採点シートを使うようになった」(岡田課長)。