「一握りのトップ営業を育てるだけでは、営業力強化につながらない。中堅のレベルを向上することは、緊急の課題だ」。日本ユニシスの亀山修人材育成部育成企画室担当課長はこう打ち明ける。

 日本ユニシスが言う中堅とは主に、20代後半から30代半ばの営業担当者を指す。基本的なビジネススキルを身に付け、提案や見積もり、契約など商談の実務を一通りこなせる。後輩の指導を任されることもある。まさに営業現場の主力と言える人材。いわば「アラサー」(Around30)世代である。同社は2009年6月から、主に入社4年目以降の営業担当者を対象にした育成施策を導入する。

 アラサーの教育に本腰を入れているのは、日本ユニシスだけではない。TISは2009年2月まで3年かけて実施した第1期「TISセールスカレッジ」(TSC)で、アラサーを徹底的に鍛え上げた。TSCの1期生の一人である小林秀史氏は「最初は自信満々でTSCに参加したが、自分にはまだまだ足りない部分があると気付くいい機会になった。TSCでの経験が営業としての視野を広げ、行動の質を高める原動力になった」と振り返る。

 2007年からアラサー教育のための研修活動を強化しているのが伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)だ。「実際の商談活動を採点し、自分自身の課題を把握させる」「講義やロールプレイを通じて、課題克服のために必要な営業スキルを身に付けさせる」といった複数の施策で、アラサー世代を体系的に教育し直そうとしている。

 日本ビジネスコンピューター(JBCC)では、営業部門で2008年1月に立ち上げた「営業塾」を、アラサーのモチベーションを高め成長を促す場にしている。単に営業ノウハウを語るのではなく、「商談に勝つためにどのような意識を持ち、どう営業行動に反映させるのか」ということを、トップ営業が成功体験や失敗談を交えながら伝える。

 このほか日立電子サービスやNTTデータ、電通国際情報サービス(ISID)も新たな人材育成策を通じて、アラサーのレベル向上を図っている。

 各社を動かしているのは、「中堅が力を発揮しなければ不況を乗り切れない」との危機感だ。ソリューションプロバイダ向けの営業研修やコーチングを請け負うネットコマースの斎藤昌義代表取締役CEO(最高経営責任者)は、「景気が不透明な時代こそ、顧客の潜在的なニーズを的確にとらえて、相手に今すぐ欲しいと思わせることが重要だ」と言う。「こうした営業は新人には無理。ある程度のスキルと経験を持つ中堅の担当者だから実行できる」と、斎藤CEOは話す。

 アラサーを教育し直すにはどうするべきか。本誌の取材の結果、二つのポイントを繰り返し実践していくことが重要なのが分かった。

 まず一つ目は、アラサーがこれまで築いてきた我流の営業プロセスを「壊す」ことだ(図1)。自分自身の強みと弱みを客観的に把握させることから、アラサーの再教育は始まる。

図1●“アラサー”(20代後半~30代半ば)世代を鍛えるポイント
図1●“アラサー”(20代後半~30代半ば)世代を鍛えるポイント
[画像のクリックで拡大表示]

 「成約率を高めるために何をいつ、誰に自分がどう実施しているのかを、一つひとつチェックすることが重要だ」。営業コンサルティングを手掛ける日本コンサルタントグループの川島章司経営コンサルタントは断言する。「過去に成功した営業プロセスにこだわり続けるアラサーが多いが、これでは自分で自分の限界を作っているようなものだ。いったんプライドを捨てなければ、アラサーの成長は望めない」(川島コンサルタント)。

 二つ目のポイントは、「トップ営業の思考法を学び、自分で営業プロセスを創り出す」ことである。

 「トップ営業の行動を表面的にまねるだけでは、実際の商談の現場では通じないことがある。どのような状況でどういった行動に意味があったのかを、自分で考えながら活用することが重要だ」。JBCCが実施する「営業塾」で講師を務め、自身もアラサーである高塚裕輝東日本事業部第2営業本部第5営業部第2グループ主任はこう話す。