経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 前回(第10回)では、「それは『IT(情報技術)以前』の問題ですから、ITでは解決できません」と、やたらと課題の整理を要求する“システム屋”が多いことを説明しました。

 こうした“システム屋”は主に、2つのタイプに分類されます。「ガミガミ屋」と「マゾヒスト」です。こうした“システム屋”たちがユーザー企業の情報システム部門にいる場合、元々ある課題がより複雑化してしまいます。

 ユーザー企業の情報システム部門にいる「ガミガミ屋」は、課題の検討が進んで、さあITの出番だというタイミングで登場します。そして「そんなことはできない」「そんな期間ではできない」「そんなコストではできない」「どうしてもっと早く知らせてくれないのか」「そもそもあいつに企画を任せるからダメなんだ」といった具合に、“上から目線”で否定的な言葉を連発します。

 相手をするほうはうんざりです。こういう人とはできるだけ接点を小さくしたくなるので、「早く知らせる」ことをあえてしませんから、こういう人がシステム構築に関与する限り、毎回、同じことの繰り返しとなるでしょう。ただし、どんなに早く呼んでも、文句ばかりを言うのですが。

名手ほど、働きぶりは地味に見える

 一方の「マゾヒスト」の“システム屋”は、やらなければならないことが大きければ大きいほど、複雑であればあるほど、期間が短ければ短いほど、内心で喜ぶタイプの人です。もちろん、口では「大変だ」「難しい」「無理かもしれない」と言いますが、実は喜んでいます。

 「ガミガミ屋」とは逆で、何も知らせずに、急に「さあやってくれ」と言われるのがうれしいのです。こういう人を早い段階で巻き込んで、十分な時間を与えても、決して準備をしたりしません。意見も言わず、準備もせず、最後にやることが決まった途端、動き出しますから、事前に知らせても意味がありません。そして、徹夜などが連続しても平気で、さらに、準備不足ゆえのトラブルをよく起こし、なおかつ、そのトラブルを楽しむ様子すらみられます。

 例えば、野球の名手は、ボールが来るところを事前に予測するので、派手な横っ飛びなどが多くありません。一方で、中途半端な選手は派手に飛んで、ボールをキャッチするものの一塁へは悪送球します。マゾヒストのシステム屋がまさにこれで、大変な局面になってようやく登場し「待っていました」と言われたいし、連日の徹夜作業には「大変ですね」と言われたいし、最後に間に合わなかったり問題があったりしても「しょうがないですよね」と同情されたい。もちろん時間的にも品質的にも問題がなければ「天才ですね」と言われたい…実は、ビジネス組織には最も迷惑なタイプの人物でしょう。