店頭,交通機関など家庭の外に設置したディスプレイにニュースや広告などの映像を流すデジタル・サイネージ。電子看板とも言われるが,既存の看板とは異なり,映像の複数拠点へのリアルタイムな一括配信や時間帯・設置場所に応じた映像切り替えなどができるのが特徴だ(写真1)。デジタルサイネージコンソーシアムの江口靖二常務理事は,「ここ数年でディスプレイとネットワークなどのインフラ・コストが下がり,デジタル・サイネージの設置需要が高まってきた。さらに不況の影響で,新たな広告・販促手法として注目が集まっている」と解説する。

写真1●ソニー・グループおよびソフトバンク・グループが提供するデジタル・サイネージの例
写真1●ソニー・グループおよびソフトバンク・グループが提供するデジタル・サイネージの例

9割はネットワークに未接続

 こうした需要の高まりの背景には「マス・メディアとパーソナル・メディアのいいとこ取りができる点がある」と江口氏は説明する。マス・メディアの代表格であるテレビは情報の受け手の個別需要に合わせた情報発信には向かないが,特定少数が不特定多数に広く情報発信する点に優れる。一方,店頭のPOPなどのパーソナル・メディアは多数の受け手に対する情報波及効果は期待しづらいが,様々な情報発信者が各々の目的に合致したターゲットに向けて情報を提供できる。

 こうしたマスとパーソナルの“いいとこ取り”を可能にするのが,デジタル・サイネージのネットワーク化だ(図1)。例えばチェーン展開する複数店舗に設置したディスプレイをWANに接続し,センター側でコンテンツを管理することで,それぞれの店舗の状況に合わせた適切な情報を適切なタイミングで一定層に配信できるようになる(図2)。

図1●ネットワーク化することでマス+パーソナル メディアに
図1●ネットワーク化することでマス+パーソナル メディアに
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図2●デジタル・サイネージによる情報配信の概要
図2●デジタル・サイネージによる情報配信の概要
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 ただ,江口氏によると「国内にあるデジタル・サイネージの9割はネットワーク化されていない」と見る。ここでは通信を必要としない中小店舗で用いる店舗POPを含んでいる。また,大規模チェーン店などはネットワーク化による巨額の投資負担を避ける傾向にあるなどの要因もある。

 さらにネットワーク化が進まない大きな理由としては,現状個別のシステムごとにコンテンツを用意している状況であり,ネットワークに接続されたとしても,表示機器によってコンテンツをカスタマイズしなければならないことがある。今以上にデジタル・サイネージのネットワーク化を進めるには,(1)コンテンツ配信方法の統一規格,(2)広告・販促ツールとして定着するための測定方法の標準化──,が欠かせないのだ。

 現状,(1)に関しては,デジタル・サイネージを展開するほとんどの企業が独自のデータ配信方法を用いて事業を進めている。今後の普及やコンテンツの充実を考えれば,その統一が望ましい。(2)に関して,野村総合研究所の前原孝章副主任コンサルタントは「2008年に性別や大まかな年齢を識別する画像認識技術が注目を集めたことの影響が大きい」と指摘する。デジタル・サイネージが広告・販促ツールとして定着するには「その効果検証が欠かせない」(前原氏)という。そのためには広告が見られているか否かを判別する指標が必要となる。「特定のターゲット・セグメントにリーチさせるウェブ・マーケティングに近い手法も可能になる」(同)との期待も,測定方法の標準化を後押ししている。

 現在,(1)のコンテンツ配信方法と(2)の効果測定について,デジタルサイネージコンソーシアムが音頭を取って,統一規格の整備を進めている段階である。