エノテック・コンサルティングCEO
海部 美知 エノテック・コンサルティングCEO
海部 美知

 先日,当地の米国で新興通信サービスを集めたセミナー「EComm」が開催された。そこで発表されたのは,単なる「廉価版電話」の枠を超える電話の柔軟な使い方である。その代表例がWeb画面上のボタンのクリック一つで通話できるというもの。電話という音声を柱としたサービスでなく,「スパイスとしての音声」(企業向け音声アプリの米ジャドゥカのトーマス・ハウCEO)がいよいよ現実的になってきたとの印象を受けた。

 無料のWeb情報は,つけっぱなしのテレビと同様「ながら視聴」的に消費されてきた。一つ一つをきちんと読んで大事に保存するのでなく,気が向いたものを取り出して消費して捨て,あとで必要になったら検索すればよい。いくらでも次々に流れてくるので取り損なっても気にならない,そしてどれを選んで拾い出すかも深く考えない。まるで“流しそうめん”だ。

Twitter上では返事を期待しない

 最近では,こうしたスタイルが,SNS(social networking service)にも徐々に浸透してきた。SNSは,1対多のメディア的なWebサイトと,1対1の個人間通信である電話の中間領域にあるサービスである。

 最も顕著な例が,日本でも人気のあるマイクロ・ブログ,Twitterである。字数に制限があり,書き手はつぶやきのような一言を公開する。ユーザーは気に入った書き手を登録(フォローという)しておくと,その人がアップしたつぶやきが表示される。

 たまたま気になる発言に遭遇したときだけ読んだり返事をしたりするというのが,Twitterの典型的な使い方だ。書いた方も誰かが返事することを期待しない。そんな“流しそうめん”的な使い方が,メディア的なサービスだけでなく,双方向性を持ったサービスに近い領域でも出現したのである。

やがて音声も“普通”の存在に

 電話でもメールでも,従来は「特定の相手に伝えたい内容」があり,それはきちんと相手に伝わらなければ困る,というものが通信であった。しかし現在では,通信手段は多様化・分散化し,ユーザーは種々の手段で,情報を重要度に応じて流したり受け取ったりしている。通信の手間もコストも軽くなった現在,重要度が低い情報も気軽に送受信できるようになり,“流しそうめん”的な消費になったのだ。

 そんな中,電話を中心とした「音声」の世界は,有料で大事に扱われる情報として孤高の存在を保ってきたが,音声ウィジェットなどの形で,ついに分散化と“流しそうめん化”に仲間入りする兆候が見られるようになってきた。こうした動きはまだそれほど大きなものになっていないが,徐々にWebサービスの中に浸透してくるだろう。冒頭に紹介したWebと音声を結び付ける技術も,その現れと言える。

 通信事業者にとっては受け入れ難いことかもしれないが,ユーザーの習慣の変化を受け止める必要がある。

海部美知(かいふ・みち)
エノテック・コンサルティングCEO
 NTTと米国の携帯電話ベンチャNextWaveを経て,1998年から通信・IT分野の経営コンサルティングを行っている。シリコン・バレー在住。
 最近,出張が多い。広い米国では飛行機が日本の電車並みの扱いだが,航空業界は本当に大変だ。2001年にテロで客足が遠のき,ようやく回復してきたら石油が暴騰,そして今度は大不況。機内では食事も無料では出なくなった。電車扱いもいよいよ本格的になった。