2011年7月の地上アナログ放送停波に向けてテレビの買い替えを順調に進めていくためには,データ放送の魅力を増すことも重要である。1台目のテレビについては、大画面でハイビジョン放送を楽しめることが促進策として機能するが、2台目や3台目のテレビは一般に画面サイズが小さく,ハイビジョンの魅力だけでは買い替えの説得力に欠ける。このため,データ放送に期待されるところが大きいのだが、今年のNHK放送技術研究所公開では,そのデータ放送に関連して非常に興味深い展示が行われる予定である。それが放送通信連携IPTVサービスとして紹介される「データ放送から通信オンデマンドサービスを利用するための取り組み」である。

 ビデオ・オンデマンド(VOD)のサービスは、既にNHKオンデマンドをはじめとして、フジテレビ・オンデマンドやTBSオンデマンドなど取り組みは活発である。しかし,これらは通信によるVOD画面を立ち上げてから,所望の番組を検索するという手順になる。今回のNHK技研における技術トライアルが画期的なのは、テレビのデータ放送画面からリモコン操作一つでダイレクトにオンデマンド・サービスを利用できる点である。

手間がぜんぜん違う

 例えば、NHKの放送で「きょうの料理」を見ていたとする。ふと以前放送された料理のレシピのものを料理したいと思った時、現在のVODの仕組みだと,まずアクトビラなどのポータル画面を立ち上げる必要がある。その中のNHKオンデマンドに入って、そこから所望の料理番組を探す。VODに対する慣れの問題もあるだろうが、あまり探すのに時間がかかってしまうと、探すのを諦めてしまうことになってもおかしくない。

 ところが、今回公開される取り組みによると操作は単純である。「きょうの料理」の放送中に,データ放送ではオンデマンドで提供中の過去の「きょうの料理」番組のリストが出てくる。同じ先生が違うレシピで料理しているものとか、同じ食材で違った料理をしている番組が、データ放送画面からダイレクトにリモコン操作だけで選んで見ることができるようになる。

 NHKオンデマンドに数あるコンテンツから何か見たい物はないかと探して、VODで視聴するのなら現在の仕組みで問題は無い。しかし放送中の番組と関連したオンデマンドのコンテンツを見たいと思う場合は、非常に便利になることは間違いない。2011年7月に向けての課題であるデータ放送の魅力アップにも大いに寄与することが期待できる。

受信料との関係を整理すべき

 そういうサービスが技術的に可能になってくると聞けば、最初に思うことはデータ放送画面からダイレクトにNHKオンデマンド画面に行けるようにすれば良いのではないかということだ。

 しかし、今のNHKオンデマンドはさまざまな経緯もあり受信料収入とは会計を分離して行わなければいけないことになってしまった。それだけに受信料収入で作られている放送の画面から,別会計で運営されている有料サービスに誘導していると批判される可能性がある。そうした批判自体が,視聴者の利便性を向上させるための妨げになっていることは確かであろう。

 とは言え、世の中には色々な言い分があるので、公共放送たるNHKとしてはあくまでも「データ放送から通信によるオンデマンドサービスを利用する」ことの技術的トライアルと言わざるを得ない事情は理解できる。民放はそうした変な制約が課されていないので,それこそ先行して新サービスとして進めていくチャンスだろう。

 ただし、NHKが公共放送だからといって、いつまでもこうした制約を残しておいていいのかは,改めて検討すべきだろう。行き着くところは、受信料問題との兼ね合いになる。受信料は放送を受信できるテレビを設置している世帯に課せられるもので、公共放送を支える特殊な負担金であると位置づけられている。しかし、一般的には、そうした法的な位置づけとは別に、視聴者は自分が見ている番組の対価と捉えがちである。

 そのため、自分が利用するつもりもないサービスに、自分が支払っている受信料が使われることに不満を持つ人がいるのも、心情的には分からないでもない。そうした受信料の捉え方については、この国の公共放送の在り方についての根源的な部分までさかのぼって,きちんと整理されるべきである。