経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 前回(第9回)は、情報システムの構築を担当する“システム屋”にとって、想像力が重要だということを指摘しました。想像力に長けた良い“システム屋”は、たとえ技術面や業務知識面で甘い点があっても、ユーザーにとって役に立つ提案をしてくれるのです。

 なぜ想像力が重要かというと、「情報」は、「ヒト・モノ・カネ」に匹敵する重要な経営資源で、これらと密接にかかわるからです。

 企業が何か新しいことに挑戦しようという時に、課題を整理し、目標を定め、施策を練った後で、「さて、コストはいくらかかるかな」と考えることはあり得ません。体制や設備についても同じで、施策を決めた後で「何人必要か」とか、「設備はあったっけ」といった間の抜けた企画を聞いたことがありません。つまり、ヒト・モノ・カネについては、そもそもどの程度の経営資源が必要になるかが必ず検討されます。ただ、残念なことに、ここから「情報」が抜け落ちていることはよくあります。

 これを如実に表すのが、「IT(情報技術)以前」あるいは「IT以前の問題」といった表現です。私は複数の企業で何度もこの言葉を聞いたことがあります。これは特に、ユーザー企業の社内の情報システム部門に属する“システム屋”からよく出る言葉です。社内の“システム屋”には「IT以前の問題が解決してから自分の出番が来る」あるいは、「IT以前の段階では声を掛けないでほしい」といった考えを持っている人が決して少なくありません。

「IT以外」と「IT以前」は違う

 「IT以外の問題」は存在するが「IT以前の問題」は存在しない、というのが私の考えです。企業が抱える問題に、IT以前の段階とIT以後の段階に切り分けたほうがよいものはないはずです。

 例えば新卒社員の初任給をいくらにすべきかといった問題は「IT以外」です。しかし、人事制度を変更して成果主義で評価しようという問題では、最初から“システム屋”が出番を勝ち取るべきです。逆に言えば、経営陣や人事部門は最初から“システム屋”を巻き込むべきなのです。

 そうでなければ、人事制度の方針が全部決まってから“システム屋”がそれを聞いて、不毛なやり取りが繰り広げられることになります。「決まったことは何ですか?」「いつまでにやらねばならないのですか?」「それは無理です」「無理ではなくても極めて困難です」「あっちの仕事を止めてやって、それでもギリギリです」ということになってしまいがちです。

 ダメな“システム屋”は、帰り道で「いつも自分たちは急に『やれ』と言われるだけだ」と愚痴をこぼしつつも、内心では「この仕事が大変だということだけは、経営陣と人事部門に伝わったはずだ」と思っています。これではうまくいくはずがありません。

 何度も言うように、情報は、ヒト・モノ・カネに匹敵する重要な経営資源です。経営陣が課題を認識し、それを解決しようと考えている時、情報すなわちITを使えば、より目的に沿った施策を講じることができるかもしれないのです。システム屋が、その付加価値を追求せず、決められたことを実現するだけではダメなのです。