経営者の皆さん、いかがお過ごしでしょうか。いよいよ今回から各論です。「学」の文字を通して、論語を学びましょう。

 古来から「学」の王道は、先人や歴史を知ることにあります。『論語』を著した孔子は、周公を理想の人物と考え、ひたすら学んだといいます。周公をはじめとする歴史上の偉人たちと“常にふれ合い”、まさに彼らとともに過ごしたというほどの徹底ぶりが、孔子の「学」に対する姿勢といわれています。孔子ほど先人から深く学び、思索した人は少ないといえるでしょう。

 孔子がどういう態度で「学」と接していたかは、次のような言葉で分かります。

 「我は生まれながらにして之を知る者に非ず。古を好み、敏にして以て之を求めたる者なり」(私は生まれながらにして道を知るものではない。古(いにしえ)の聖賢の書物や先人の説いた道を好み、精力的に真理を探求し学問を続けている人間だ」と。

 孔子は謙虚にこうも言います。

 「十室の邑(ゆう)、必ず忠信丘が如き者有らん。丘の学を好む如くならざるなり」(十戸くらいの小さな村でも、丘(孔子)のように真心を尽くす誠意のある者はいるだろう。しかし、私ほど学問を好み、人格の大成を目指す者はいないだろう」と。

 孔子なら“世界”といってもよいでしょうが、十戸くらいの村と謙虚に言っていますが、学問への情熱、思いの強さは誰にも負けないというわけです。学習意欲の強さがいかに重要かということでしょう。この姿勢が強い人ほど、1つのことから多くのことを学ぶことができ、それゆえに成功するともいえるでしょう。

 作家の吉川英治は「我以外皆師」「生涯一書生」を座右の銘として学び続けたように、すべてを師として学ぶ姿勢は、経営者、リーダーにとって、極めて重要な基軸ではないでしょうか。

小学校中退でも、様々な経験を通して謙虚に学んだ松下幸之助

 孔子に重なって筆者に思い起こされる経営者は、松下電器産業(現パナソニック)の創業者である松下幸之助です。小学校4年生の時に中退した幸之助は、様々な経験を通して謙虚に学び続けたといいます。一つひとつのことから深く学ぶことができる力を持っていたからこそ、偉大な経営者になれたのです。

 1つの現象に遭遇した時に、常人にはなかなか気づかない真理にたどり着くまで探究し、考え抜きました。そして、自らつかんだ真理を経営に生かしていったのです。“真々”とは、真理の奥にある真理を追求していくという意味の言葉ですが、まさに幸之助の学ぶ姿勢を示しています。

 幸之助は、1929年の世界恐慌をはじめ様々な厳しい不況や戦争、戦後の公職追放など数々の逆境を乗り越えた人物です。逆境にあっても、決してブレることのない経営者として、学ぶべきものがたくさんあります。

 はたして、幸之助はいかにして未曾有(みぞう)の危機を克服したのでしょうか。戦後最大の危機ともいうべき厳しい不況に直面したのが、「昭和39年(1964年)不況」でした。この時、幸之助が開いた「熱海会談」はつとに有名です。

 昭和39年当時の家電業界は、年率30%の伸びを続けていて、日本経済は東京オリンピック・ブームに支えられて、さらなる高度成長を継続するだろうと予想されていました。しかし、昭和38年末に過熱ぎみの景気を抑えるために、政府が金融引き締めを強化したため、需要が大きく落ち込み、設備過剰が急速に表面化。大半が借金中心の経営だったために、深刻な不況に陥ったのです。他方、その販売不振を打開するために、各販売店の販売競争が激化し、業界は混乱しました。同じ松下電器の販売会社・代理店間でも非効率な競争が起こり、経営悪化が目立ち始めたというわけです。