「垂直再統合(バーティカル・リインテグレーション)」。米オラクルによる米サン・マイクロシステムズの買収や、米シスコシステムズのサーバー市場参入をこう呼ぶ。専業メーカーによる水平分業のオープンシステム時代は幕を閉じ、メインフレーム時代を彷彿とさせる垂直統合が「再び」やってくるので、統合(インテグレーション)ではなく再統合(リインテグレーション)という言葉を使う。

 買収を発表した2009年4月20日の電話会見でラリー・エリソンCEOは、「オラクルは、アプリケーションからディスクまでを統合したシステムを開発できる唯一の企業になる」と豪語した。1977年の創業以来、ソフトウエア専業を貫いてきたオラクルがサンの買収によって、UNIXサーバーやストレージ装置といったハードウエア事業も手に入れる。

クラウドは垂直再統合の最たる姿

 実はIT業界を見渡してみれば、大手ベンダーは皆「垂直再統合」を目指している。米ヒューレット・パッカードは2008年5月にサービス大手の米EDSを買収し、米シスコシステムズは2009年3月、サーバー市場参入を発表した。米マイクロソフトはクラウドサービス「Windows Azure」で、ハードウエアやストレージを含むITのプラットフォームすべてをサービスとして提供することを目論んでいる。

 クラウドコンピューティングは、垂直再統合の最たる姿だ。ユーザーが求めるのは統合された「サービス」だけであり各要素はもはや問わない。米セールスフォース・ドットコムのCRMアプリケーションは「Oracle Database」を基盤ソフトとして使用するが、それが一夜にして別のデータベースに置き換わったとしても、サービスが正常に動作し続ける限り、ユーザーは何も思わないだろう。

 「クラウドは信じない」と公言するオラクルのエリソンCEOが、クラウドコンピューティング事業のためにサンを買収したとは考えられない(いくらセールスフォースで使われているサーバーがサン製だったとしても)。クラウドではない「オンプレミス(自社運用型)」の事業を守り続けるため、クラウドの味を知った顧客にも受け入れられる単純なシステムが実現できるよう、ハードウエア事業も統合したと考えるのが自然だ。