NVNO(仮想移動体通信事業者)として通信サービスを手がける日本通信は2009年3月10日,NTTドコモとのレイヤー2接続による個人向け通信サービス「Doccica」(ドッチーカ)を発表した。将来は,従来のレイヤー3ではできなかった企業向けサービスやMtoM(マシン間通信)向けサービスが可能になる。

写真1●新サービスDoccicaの端末
写真1●新サービスDoccicaの端末
USBドングル型端末は中国ZTE製。写真のようなケーブルを使わずに,直接パソコン本体に挿し込むことも可能。3月23日に発売した。

 Doccicaは,NTTドコモのFOMA網を利用するパソコン向けのデータ通信サービスである(写真1)。日本通信の三田聖二代表取締役社長は「レイヤー2接続によるメリットを追求し,多くのユーザーに使ってもらうことを考えた」と自信を見せる。


ID入力なしで無線LANに接続

 今回実現したレイヤー2接続により,日本通信は端末認証,セッション管理,IPアドレスの割り当てなどを実現できる。ユーザー管理の自由度が高まるため,日本通信はサービスを開発しやすくなる。レイヤー3接続では,MNO(移動体通信事業者)が管理していた。

 レイヤー3接続による同社のデータ通信サービス「bモバイル3G」と比べて,Doccicaでは(1)公衆無線LANサービスを利用でき,(2)初期費用(通信料込みの端末価格)を下げられるようになった(表1)。

表1●レイヤー2とレイヤー3によるサービスと接続料の違い
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表1●レイヤー2とレイヤー3によるサービスと接続料の違い

 (1)の公衆無線LANについては,NTTコミュニケーションズのホットスポット,ソフトバンクテレコムのBBモバイルポイントなど,複数のサービスが利用できる。

 これを実現するために,レイヤー2接続の仕組みを利用した。日本通信は「特許にかかわるので詳細は明かせない」とするが,日本通信のRADIUS(remote authentication dial-in user service)サーバーがユーザーを認証し,IPアドレスを割り振る機能を応用しているという。「ユーザーが初めて接続した際に,Doccica端末のシリアル番号をFOMA網経由でRADIUSサーバーに対して送信する。この際に,ユーザーが使うIDやパスワードを自動生成している」(同社常務取締役の福田尚久CMO兼CFO)。

 レイヤー3接続の場合には,日本通信はNTTドコモ経由で認証情報を取得する。このため,こうした細かい制御ができないという。

1000円単位で通信時間を追加

 (2)の初期費用については,「できるだけ一般の消費者が使ってもらえるように設定した」(三田社長)とする。bモバイル3Gでは初期費用が約4万円であり,「ユーザーの導入障壁になっていた」(三田社長)。これに対してDoccicaでは,半額以下の1万4800円に設定し,通話時間は利用状況に合わせて1000円単位で追加購入できるようにした。

 1分当たりの料金は,従来のbモバイル3Gの方が安い。初期費用のうち1万円が端末価格で残りが通信料金だとすれば,Doccicaの通信料金は1分10円,bモバイル3Gは1分3.3円となる。それでもユーザーの導入しやすさを考え,初期費用を抑えることを優先した。

 三田社長は,「他社の既存のデータ通信サービスでは,あまり使っていない場合に無駄な通信費を払うことになる」(三田社長)として,通信頻度が多くないユーザーや,時期によってばらつきがあるユーザーは,通信料を削減できるとアピールする。

 例えば,通信エリアが同じNTTドコモのデータ通信サービスの場合,通信料金は月額3465円~5985円(2年契約,バリューコース)。月に数回の出張で使う程度の接続時間が短いユーザーであれば,日本通信のDoccicaのほうが安上がりになるケースが多そうだ。

 日本通信が安価な料金を設定できた理由は,NTTドコモとの接続回線の帯域利用効率を上げられたからだという。レイヤー3接続に比べて運用コストがかかっているが,それ以上に帯域の利用効率向上によるコスト・メリットが大きかったとみられる。

 NTTドコモが3月13日に更新した接続約款で示されているレイヤー2の接続料を見ると,10Mビット/秒までであれば1267万1760円。レイヤー3接続と比べて175万円ほど安い(表1下)。

 ただし,日本通信はレイヤー2接続の際に,中継パケット交換機(GGSN)を自前で管理する方式を選択した(図1)。一般に,中継パケット交換機の開発には数億円がかかり,運用にも高度な技術が必要となる。レイヤー2接続によって,日本通信の運用コストは高くなっていると考えられる。

図1●中継パケット交換機の収容でサービスを拡大<br>レイヤー2接続ではGGSN(中継パケット交換機)を日本通信のネットワーク内に配置する。日本通信側で「接続の制御」「IP割り当て」「端末認証」が可能となり,サービスの幅を拡大できる。
図1●中継パケット交換機の収容でサービスを拡大
レイヤー2接続ではGGSN(中継パケット交換機)を日本通信のネットワーク内に配置する。日本通信側で「接続の制御」「IP割り当て」「端末認証」が可能となり,サービスの幅を拡大できる。
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 日本通信によると,GGSNを自前で設置することで,通信の品質を保ちながら,限られた帯域の中で数多くのユーザーを収容できるという。福田CMO兼CFOは「固定網のNGN(次世代ネットワーク)では,ルーターが通信品質を制御する機能を持っている。携帯電話網の中で,同様の制御をしている機器がGGSNである」と説明する。

企業向けとMtoMを開拓

 レイヤー2接続の特徴を生かした新たな用途として想定するものの一つが,企業向けサービス。レイヤー2接続による端末認証やIPアドレスの割り振りを応用すれば,従来のデータ通信サービスよりもセキュリティを向上できる。VPN(仮想閉域網)やワンタイム・パスワードも導入可能という。

 もう一つは,MtoM(machine to machine)サービス。米国でMVNOを手掛ける日本通信の関連会社は,銀行のATM(現金自動預け払い機)をオンライン・システムに収容するための無線通信をレイヤー2接続で提供している。有線で接続する場合と比べ,通信料は50分の1程度で済むという。ATMは通信に広い帯域を必要としないので,格安な料金設定を可能にした。

 安全性を保ちながら,通信量に応じて安い料金で接続できるという特性によって,新たな用途が広がる可能性がある。例えば,電気ポットの利用状況を定期的に確認するといった用途であれば,米国のATMと同様に通信量が少ないために通信料も安く抑えられる。日本通信は,レイヤー2の特性を生かした機器をメーカーと共同で開発中という。

 従来の移動体通信事業者は,ARPU(1ユーザー当たりの平均収入)の向上を狙ってきた。これに対して日本通信は,ARPUは低くても,これまでに無い数多くの用途の開拓を目標とする。今後どのようなサービスや機器が登場するのか,注目したい。