ビジネスとITの摩訶不思議な世界を“創発号”に乗って旅する匠Style研究所。第4回では、要求合意の過程で発生する「提案」という行為や、その背後にある「アイデアの創出」について、僕が技術顧問をしているリコーソフトウエア内での“雑談”をベースに考えました。今回も、その雑談の続きをお伝えします。さあ今日も、愉快に創発への旅を楽しんでください。

 この雑談は、僕が技術顧問をしているリコーソフトウエアでの内容です。「社員の提案力を高めるためには」をきっかけに、リコーソフトウエア元社長の高田さんと、ソリューション事業部の菅生さんと山下さん、そして私が話しています。

提案力と抽象化の関係

高田:Whatの部分がHowの抽象化になっているように思えますが、このような抽象化は、できる人とできない人がいるような気がします。

萩本:そうですね。どうしても無理な方もいらっしゃいますが、ほとんどが長期的な訓練でなんとかなるのではと思っています。

高田:それは、どういう訓練ですか?

萩本:簡単に言うと、本質面で抽象化するテクニックを身に付けることです。このテクニックは訓練で身に付けられると思うのです。例えば僕の場合、物事を考える時に、「思考の秩序棚」という入れ物を脳に形成しているんですよ(図1)。

図1●「思考の秩序棚」
[画像のクリックで拡大表示]

 それは、次のように、「事実」「メカニズム」「コンセプト」「目的」「理念」というもので、下に行けば行くほど、現実とか事実となり、上に行けば行くほど本質面で抽象化されるのです。僕は、問題・課題を見る際に、いつもこの棚に入れて問題を考えるようにしています。

 例えば、この問題そもそもの原因は、「問題を引き起こすメカニズム(仕組み)は何か」「課題における、あるべきコンセプトは何か」「そもそもどのような目的だったのか」、また「本来の目的は何であるべきなのか」。「そもそもどのような理念でこのような結果が生まれるのか」、また「本来理念としてどうあるべきなのか?」。このような考えを、抽象化と具象化を行き来しながら考えているのです。

 この中で最も成果が出たと思えるのは、常に目的につなげることだと思います。そして、コンセプトやメカニズムとして問題をとらえる訓練は、アーキテクトとしても重要だったと思います。提案する際に、常に目的ベースで考えたり、提案のコンセプトをしっかり整えたりすることは大事ですからね。

 これはまさに思考のトレーニングで、1998年ごろに書いた書籍『最新オブジェクト指向技術応用実践』でも紹介したことがあります。既に10数年も実践していますが、自分の中で大きな成果を上げてきました。このようなトレーニングにより、提案力を高めるための本質面で抽象化するためのテクニックが身に付くという自信があります。

高田:う~ん、なるほど。