「これだけ大規模にITインフラを見直すのは初めてのことだ」―。ヤマハ発動機のプロセス・IT部IT技術戦略グループの和田秀昭氏は、同社が現在進めている刷新計画をこう説明する。同社は2006年にグローバル規模でヤマハ発動機グループ全体のITインフラの見直しに着手。07年からサーバー統合の検討を開始し、08年9月にVMwareの仮想化技術を使って統合を進める手順の検証を終えたばかりだ。同社が2016年の実現を目指す「ITインフラグランドデザイン」である。

 そのカギとなるのが、日本、米国、欧州、中国、台湾、シンガポールの6カ所に設けるデータセンター(図1)。最終的には世界各地の現地法人が個別に構築したデータセンターやサーバー室を、この6カ所に移行する計画だ。各システムは運用センターからネット経由で集中的に運用。データセンターを軸にして世界規模でシステムを最適化する構想だ。

図1●ヤマハ発動機は世界各地にあったデータセンターを見直し、最適化を進めている
図1●ヤマハ発動機は世界各地にあったデータセンターを見直し、最適化を進めている
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データセンター集約でTCO削減

 ヤマハ発動機がこのような見直しに踏み切ったのは、売り上げの9割を占める海外法人において情報システムの開発や運用が負担になっているケースがあるためだ。「海外法人は80拠点以上。そのすべての法人でIT部門の人材や予算が必ずしも潤沢にあるわけではない」と和田氏は打ち明ける。グローバルでITリソースを集約し、効率的にシステムを開発・運用することが求められているのだ。

 日本国内のシステムについても課題を抱えていた。「メインフレームをオープン化する過程で、その都度最適なハードウエアやソフトウエアを導入してきたつもりだ。ただ結果的には個別最適になっていた。TCO(総所有費用)削減には整理が必要だった」(和田氏)。

 災害への対策も懸念材料だ。日本法人は03年に大規模災害時の業務フローを業務部門と一緒に整理した。しかし業務部門がネットワークやメールを利用できない場合を想定した訓練が中心。「データセンターは無事というのが前提だった。ITそのものの災害対策は依然として課題」(和田氏)なのだ。

 「ITインフラグランドデザイン」では世界6カ所のデータセンターに主要なサーバーを集めることで、これら複数の課題を段階的に解消する。具体的には散在するサーバーやストレージをデータセンターに集約し、効率よく運用できるよう再構築する。データセンター間の相互バックアップ、業務システムの共同利用なども実施する。これにより現地IT担当者を新システムの企画に専念させることができる。

 国内ではそれに先駆けて準備を進めている。300台のサーバーを仮想化技術を使って統合し、台数を半減させる。業務ごとに「SA」「A」「B」など重要度を判定し、重要度に見合ったITインフラ上でその業務向けのシステムを動かすことにした。それほど重要でない業務システムを完全冗長化したサーバーで動かすのはムダな設備投資であるとの考えからだ。「TCOも半分にしたい」と和田氏は意気込む。

 国内向けのデータセンターは2011年から新たに建築する。サーバー数は減らすものの、仮想化環境に不向きなサーバーもある。計算上では100ラックを設置できるスペースと電力容量が必要になる。現状のサーバー室は、20年以上も前にメインフレーム用に作ったもの。災害時の耐震性や電力容量に不安があった。