統合ストレージ基盤を構築している場合,複数の業務システムで1台のストレージ筐体を利用することになるでしょう。今回は,そうした環境における,ストレージの物理設計を行う際の二つの考え方を紹介します。

「筐体最適」の考え方

 個々の業務システムではなく,ストレージ筐体として最大性能を出すことを優先する考え方です。(1台のストレージ筐体を利用する)複数の業務システムに明確な優先順位を付けられない場合に適しています。サーバー1台(もしくは1業務システム)当たりのストレージ利用量が比較的少ない場合,目安としては「サーバー1台当たりの平均利用量 < 1RAIDグループ単位の容量」となるケースで有効な考え方です。

 この考え方のポイントは,「資源の分散化」と「資源の順次利用」です。前者は,可能な限り資源の分散化を図って,競合の発生を抑制することを指します。後者は,あらかじめ決めた資源共有レベルに達するまでは次候補となる資源を利用せず,一定のレベルに達してから順次資源を割り振ることを指します。

資源の分散化
 ここでいう資源とは主に,物理ディスクと,サーバー接続用のストレージ・ポート(FAポート:Front-End Adapterポート)のことです。これらを分散化させ,ディスク・アクセスの競合を抑制します。

 例えば,サーバーが要求するディスク容量が200Gバイトの場合,1つの論理ボリュームとして146Gバイトの物理ディスク2個で構成した場合と,10Gバイトの論理ボリュームを20個の物理ディスクに分散配置した場合では,後者の方が明らかにディスク・アクセスの競合は抑制されます(この例ではRAIDによるディスクの冗長性の考えは無視しています)。

 また,1台のストレージに10台のサーバー(サーバー1台当たり2パスで接続)を接続する場合,[ストレージ]―[SANスイッチ]―[サーバー]の構成を採るとストレージのFAポートは2ポート(冗長性),[ストレージ]―[サーバー]の構成を採るとストレージのFAポートは20ポートとなり,明らかに後者の方がファイバ・チャネル部分の競合は抑制されます。

 資源分散のアプローチのメリットは,資源競合による性能遅延の発生の可能性を遅らせることです。早い段階で,統合ストレージ基盤の性能的な能力をすべて享受することが可能となります。もちろん,利用容量や接続数が増加してくれば,占有的な資源の利用が難しくなり,資源共有して利用することになります。

 資源分散アプローチのデメリットとして最も大きなものは,接続サーバー数や容量が増加してきた場合,もともと利用していたサーバーの性能に影響を及ぼすという点です。当初は,一つの物理ディスクに単一の業務システムを割り振ることができますが,時間が経つに従い,他の業務システムも割り振らざるを得なくなります。そうして物理ディスクの共有度が高くなると,競合の発生率は増加し,性能遅延の可能性が増大します。

 資源分散アプローチは,ストレージ設計の観点では比較的に容易ですが,運用管理局面で,きめ細やかな性能管理が求められます。

資源の順次利用
 あらかじめ設計された資源共有レベルに達してから,次の資源を割り当てるという方法です。例えば,1FAポート当たりの資源共有レベルを8サーバーまでとした場合,8サーバーまでの接続要求は同じFAポートを利用し,9サーバー目の接続から次の空きFAポートの利用を開始します。

 早い時期にある程度の競合が発生することになりますが,時間の経過とともに性能遅延が発生しやすくなるという危険性が低くなります。ただし,当初の予定通りのサーバー接続や容量の利用が無かった場合,アイドル状態の資源が残ることなり,投資した資源の有効活用という観点で問題が生じます。

 この方法を採用する場合は,実際の稼働状況を確認しながら,同一資源への追加割り振りを決めていく必要があります。ストレージ筐体レベルでのキャパシティ管理やライフサイクル管理も加味して対応することになります。

推奨アプローチ
 筆者の経験的な推奨アプローチは,資源の分散化と資源の順次利用を混合させることです。まず,その筐体のライフサイクル(利用年数)を決定し,そのライフサイクル内で接続が想定されるサーバー数,パス数,利用ディスク容量を決定します。導入当初からすべての資源を調達する必要はないので,初期調達分,2次調達分(増設分)と併せて,ストレージ基盤のライフサイクル計画を立案します。

 例えば,ライフサイクルを5年とし,導入後2年までは新規業務システムの利用の要求に応えるストレージ基盤と位置づけたとします。導入後の2年間を半年ごとの4期に分割し,その期間内で接続されるサーバー数や容量などを基に,ストレージの資源グループ(FAポートやRAIDグループなど)を想定します。この想定は,事業計画の把握や企業内での過去の経験が生かされる部分です。

 期間ごとに想定した資源グループ内では,資源の分散化アプローチにより,極力分散化を図ります。次の期間になるとき,資源の順次利用の考え方を適用し,時間が経ってから競合状態が大幅に変化することを抑制します。

 筐体最適の考え方の場合,定期的な性能管理が欠かせません。設計されたしきい値に基づいて性能を管理し,必要に応じて資源グループを定期的に見直しましょう。