ここまで一般的なSAN設計について説明してきたが,今回はブレードサーバー環境特有の話に絞って説明しよう。ブレードサーバー環境のSAN接続形態には,ブレードサーバーにHBAをそれぞれ搭載して通常のサーバーと同様の接続をする形態と,「ブレード型FCスイッチ」という専用のスイッチを搭載してエンクロージャ内部で一度集約して接続する形態がある。

アクセス・ゲートウエイ

 ブレード型FCスイッチ向けの機能として登場したのが「アクセスゲートウエイ(AG)」と呼ばれる機能である。この機能を理解するには,FC-2レイヤーで規定される「ポート・タイプ」を理解する必要がある。ポート・タイプには次のようなものがある(図1)。

図1●ポート・タイプ
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ノード(サーバーやストレージ装置のこと)のポート・タイプ
 N_Port サーバーやストレージのポート

スイッチのポート・タイプ
 F_Port サーバーやストレージが接続されているスイッチのポート
 E_Port スイッチ間接続ポート
 U_Port 何も接続されていないポート
 G_Port E_PortかF_Portの確認が取れていない状態遷移中のポート

 ブレード型FCスイッチのようなサーバー集約目的のためのスイッチには「アクセスゲートウエイ(AG)モード」が備わっており,それをONにしたりOFFにしたりできる。通常,スイッチ間接続のポートはE_Portと認識されるが,AGモードをONにするとN_Portになる。N_Portになると,ブレードサーバーを交換したり故障したりしても,各スイッチが持つ「ゾーン・データベース」を更新しなくて済む。サーバー交換や故障の際の影響範囲を小さくできる。

 また,AGモードを利用することで,ブレード型FCスイッチを1台のサーバーに接続されているHBAとして考えることができる(図2上)。ので,責任分解点がブレードサーバー内部ではなくなる。ブレードサーバーとスイッチ間を責任分解点とすることが可能になるため,障害対応が分かりやすくなる

 ブレード型FCスイッチは,AGモードをOFFにすると通常のFCスイッチと同じになるが,AGモードをONにするとHBAとして考えることができる(図2)。これは,サーバー担当とSAN担当の責任範囲の違いになってくる。一般的に,ブレード型FCスイッチをHBAとして動作させた方が責任範囲がはっきりし,障害対応がやりやすくなる。

図2●ブレード型FCスイッチのアクセスゲートウエイ・モード
図2●ブレード型FCスイッチのアクセスゲートウエイ・モード

NPIV

 AGモードを利用するときには,「NPIV」と呼ばれる技術が利用される。NPIVとはN_Port ID Virtualizationの略。N_PortのIDを仮想化し,一つの物理ポート(N_Port)上に複数の仮想ポート(Virtual N_Port)を持たせる技術である。ブレード型FCスイッチをAGモードで利用すると,物理的には一つのN_Portだが,ブレードサーバーごとの複数の仮想ポートを作ることができる。

 このNPIVの技術はサーバー仮想化にも対応する。1台の物理サーバーに接続したN_Portを,複数の仮想OSごとに仮想ポートを割り当て,仮想OSごとのゾーニングを設定できるようになる(図3)。

図3●NPIV技術
図3●NPIV技術

鈴木 孝規(すずき たかのり)
ブロケード コミュニケーションズ システムズ
システムエンジニアリング本部 システム・エンジニア
富士通ビジネスシステムのシステム部門にて金融系,官庁系のセキュリティやストレージのシステム導入を経験。さらに富士通のプリセールスSE部門などにおいて,大規模ネットワークのシステム設計や導入に携わった後,ブロケードコミュニケーションズシステムズに入社。データセンター事業者や製造業などの顧客企業向けに,SANを中心としたデータセンター・ネットワーク構築・導入の提案活動に従事している。