Forrester Research, Inc.
ジェームズ・マクイビー バイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト

 デジタル家電の世界的な展示会「CES」が今年も1月に米ラスベガスで開催された。世界経済危機の最中という最悪のタイミングもあって、ほとんどの出展者が“お値打ち感”を前面に押し出した。

 そうしたなか、重要な変革がひそかに起こった。LG電子、サムスン電子、ソニーといったテレビメーカーが一般消費者の興味を引くような「コネクティッドTV」戦略を発表したのだ。

 Webサービスとの連携可能なコネクティッドTVの時代がついにやってきた。ヤフーが提供する「Yahoo! Widget Engine」が時代を切り開いた。仕様が公開されたアプリケーション開発言語で、これを使うとテレビから利用する対話型コンテンツ(ウィジェット)をだれでも簡単に開発できる。

 今回のCESでは、多くのメーカーがYahoo! Widget Engineを搭載したコネクティッドTVを出品した。画面の下に並ぶアイコンをリモコンで選択すると、すぐにヤフーの天気予報などを閲覧できる。ヤフーだけでなく、CBSドットコム、イーベイ、マイスペースなどもヤフー仕様のウィジェットを公開している。

 LG電子、サムスン電子、ソニー、そしてビジオ(VIZIO)の4社が2009年半ばまでにヤフー仕様のウィジェットを利用可能なコネクティッドTVの出荷を公約している。年末までに全米で少なくとも100万世帯が購入するだろう。特別な設定作業なしに使える利便性が評価され、2010年には数百万台が出荷されるはずだ。

 テレビメーカー各社はヤフーだけでなく、アマゾン・ドット・コムやブロックバスター、(DVD宅配レンタル大手の)ネットフリックスなどが提供するコンテンツ配信サービスの支持も表明している。このことはコネクティッドTVのビジネスモデルが、iTunesとiPodのような垂直統合型ではなく、様々なコンテンツ配信サービスと機器から好みの組み合わせを選んで使う水平分業型であることを意味している。

 コネクティッドTVは既存のプレーヤーに退場を促すものではない。それどころかコンテンツ提供者や広告事業者、小売業者、そしてテレビサービス提供者にとっては顧客との関係を強化する好機でもある。

 ただし消費者に受け入れられるウィジェットを開発するには、いくつか気をつけなければならない点がある。なかでも忘れてはならないのは「消費者はテレビを見るためにテレビを買う」ということだ。この事実を尊重したウィジェットだけが消費者の関心を引き付けることができ、広告主の支援も受けられる。

 初期のウィジェットは最初は画面の大半を占有するなどテレビ番組を見る妨げとなるものが多い。だが、少しずつ成熟していくに違いない。

 2009年秋にはもう少し洗練され、テレビ番組と共存できるウィジェットが登場し始めるだろう。そして2010年の終わりごろには、テレビ番組とよりうまく連携するウィジェットが登場するはずだ。そこまできたとき初めて、コネクティッドTVは家庭に根を下ろすこととなる。

 昔から何度も登場しては消えていった双方向型テレビは、今後こそ成功しそうだ。動画製作者はすぐに対応を考えたほうがよい。

 RokuやVUDUのようなセットトップボックス・メーカーは早くウィジェットに対応しないと生き残りは難しい。ブルーレイ・ディスク(BD)・プレーヤーやDVDプレーヤーも同様だ。

 家電メーカーは広告事業者とより密接な連携を意識すべきだろう。ソニー製テレビに、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の広告ウィジェットがあらかじめ組み込まれている時代が、すぐそこまで来ている。ウィジェットは世の中の仕組みを大きく動かす力を秘めている。

◆本記事は,“The Year Of The Connected TV”を日経コンピュータ編集部で翻訳・構成したものです。