企業が構築するモバイルシステムにおいて、多種多様なMVNO(仮想移動体通信事業者)サービスから最適なサービスを選択するためのポイントは、コスト比較だけではない。通信品質・通信可能エリアはもとより、利用できる通信デバイスやネットワーク構成、セキュリティ、さらには利用者のユーザビリティなどを考慮する必要がある。

コスト比較だけでは選べない

 企業が構築するモバイルシステムにおいて、多種多様なMVNOサービスから最適なサービスを選択するためのポイントとしては、コスト以外に次のような点が上げられる。

通信品質・通信可能エリア:通信品質・通信可能エリアは、MNOの設備に依存する。そのため、MVNOが提供するサービスがどのMNOの設備を利用しているかを確認しておく必要がある。

通信デバイス:通信事業者が提供するデバイスとしては、PCカード、CFカード型、ExpressCard型、USB接続型などがある。企業はそれらのなかからモバイルシステムで使用するモバイル端末に最適な通信デバイスの選定が必要になる。

 MNOのサービスと比較すると、MVNOがサポートしている通信デバイスの種類は少ないことが多い。だが、独自端末やサービスと組み合わせることで、安価になっている場合がある。

ネットワーク構成:通信事業者と企業ネットワークとを閉域網で接続する必要があるかどうか、またそれが可能かどうか、モバイル端末に割り当てるIPアドレスの範囲に制限がないか、などを確認しておかねばならない。

セキュリティ:モバイルシステムの導入においては、不正に外部から企業ネットワークにアクセスがされないようにするため、セキュリティ面に対する配慮が必要だ。

 さらに、各企業のセキュティポリシーに準拠したサービスが提供されているかどうかを確認する必要がある。検疫ネットワークによるポリシー違反の端末の隔離や、モバイル端末からは特定の業務システム以外を利用できなくするアクセス制御、適正なモバイル利用がなされているかを監査するためのアクセス履歴を保持などだ。一般には、MNOよりMVNOのほうが小回りが利くことが多い。

ユーザビリティ:実際にモバイルシステムを利用する現場の担当者にとって、使い勝手は非常に重要だ。オフィスから社内ネットワークに接続するのと同じツールや動作で、オフィス外からも社内ネットワークに接続できるかどうかや、複数の無線アクセス環境がある場合は、利用者が意識することなく最適なネットワークを選択できるか、といったことの確認が重要である。

さらなる多様化が始まる

 移動体通信サービスとしては、次世代無線通信のWiMAXや次世代PHSを利用したMVNOサービスが注目され始めている。今後は、MVNOの市場参入増加によって、さらなる競争促進や市場拡大が期待できる。

 総務省が開催する「モバイルビジネス研究会」の報告書は、MVNOの増加によって、以下のような効果を期待できるとしている。

●固定系通信事業者がMVNOとしてFMCサービスを提供すれば、ブロードバンドサービスの多様化が進む

●ローカルMVNOが提供するモバイルサービスを利用した公共サービスの拡充などによって、地域の活性化が図れる

●特定用途に特化したサービスを用意した通信事業と他業態の事業とが組み合わさることで、市場創出などの相乗効果が得られる

●サービス開発により新事業が創出される

●MVNOが独自端末や独自アプリケーションを開発・提供するで、端末やサービスが活性化されるとともに、そのノウハウを活用したグローバルな事業展開が可能になる

 2009年2月には、ソフトバンクモバイルがイー・モバイルのMVNOとして、定額データ通信サービスを提供することが報道された。MNOがMVNOになるケースや、MVNOがMVNEになって他のMVNOへサービスを提供するケースも増えるだろう。また「ディズニーモバイル」のように、強いブランド力をもつ企業自らが、MVNOとしてサービスを提供するケースも珍しくなくなるかもしれない。

 MVNOが増え、種々のサービスが提供されるようになれば、企業のモバイルシステム構築においても、従来にない仕組みの構築が可能になるだろう。各サービスの特徴を踏まえ、MVNO、MNOを区別することなくサービスを選択することが重要だ。

1994年3月京セラ入社。その後、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)に転籍。SEとして通信事業者向け認証・課金システムや企業向けASPサービスシステムなどの携帯電話向けシステムの構築を手がける。現在、コンシューマ向けWebシステムを構築するコンシューマビジネス部に在籍。