繰り延べ税金資産、工事進行基準、金融商品の公正価値開示、負ののれん代、資産除去債務…。ビジネスパーソンなら、どれも仕事や新聞、ビジネス誌などで一度は見聞きしたことがある言葉だろう。さらに言えば、関心は持ったけれど、その場の説明だけではなんとなく分かった気になっただけで、誰かに説明してみろと言われてもうまくできないという人が多いのではないか。

 そんなビジネスパーソンに、絶好の“チャンス”が訪れる。こうした「会計」の知識がビジネスに不可欠になる状況が早晩やってくるかもしれないのだ。チャンスと呼ぶのは逆説的な言い方だが、必要に迫られれば誰もが真剣に取り組まざるを得なくなる。

 貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書をはじめとする会計の分野は、多くのビジネスパーソンにとって「きちんと知っておきたい」ビジネス教養でありながら、使われている言葉や言い回しがとっつきにくく敷居が高い。新入社員向けや、税理士・会計士を目指す人向けの入門書を読み始めても、途中で挫折して、なおざりにしてしまいがちである。実は筆者もその一人だ。

 だが、多くのビジネスパーソンが、相応の会計知識を身に着けざるを得ない状況が迫っている。きっかけは日本への「国際会計基準」の導入である。

 国際会計基準の正確な名称は「国際財務報告基準」であり、英文では「International Financial Reporting Standards」という。略称の「IFRS」は“アイエフアールエス”または“イファース”と読む。2005年以降、日本と米国を除く主要国が続々と採用しているこの国際会計基準が、これまでのビジネスのさまざまな“常識”を揺さぶり始めている。

 実は冒頭に挙げた5つの事項は、どれも国際会計基準に端を発している。日本の会計基準を国際会計基準に近づける一環として、先行的に取り込まれたものだ。日本は現在、国際会計基準そのものを採用することも検討しているが、それに先立って日本基準を国際会計基準に近づける作業が続けられている。

 では、国際会計基準はどれほどの影響をビジネスに与えるのか。4月から適用が始まった工事進行基準は、ソフトウエア開発会社などに対し段階的な利益計上のために、厳密なプロジェクト管理を強いることになった。同様に利益計上のタイミングの見直しを迫る基準変更としては、「製品販売の出荷基準から検収基準への変更」「製品保証やポイントに相当する売り上げ分の繰り延べ」などが見込まれる。例えば商品価格の10%分のポイントを付けて販売している企業は、国際会計基準を適用した途端に、損益計算書上の売上高が最大で10%減少する可能性がある。現在の引当金処理は認められなくなる。

 製造業なら、下請けの部品メーカーに自社専用の部品を作ってもらうための金型や製造設備を置いていると、自社の有形固定資産として貸借対照表に計上しなければならなくなる可能性がある。結果として、ROA(総資産利益率)などの資産効率の評価指標は低下する。