アビームコンサルティング
製造・流通統括事業部 執行役員 プリンシパル
IFRS Initiative リーダー 公認会計士
藤田 和弘

 前々回前回で,国際会計基準(IFRS)が必要とされる背景とグローバル・スタンダードとなっていく過程,そしてIFRSの会計基準としての特徴を説明してきました。

 ここまでの連載でお分かりのように,個々の上場企業がIFRSを採用するか,しないかを議論する段階はもう過ぎています。いつからIFRSに取り組むのかという決断のタイミングが問題なのです。

 発想の転換も必要です。新たな基準を導入する際には,「規則だから仕方なく対応する」「期限までになんとか対応できれば良い」「できれば規則に抵触しない最低限の取り組みにとどめたい」といった具合に,積極的に取り組もうという声は上がってきにくいものです。

 しかし,規律のない自由が存在しないのと同様に,ルールのない競争はあり得ません。ルールに早く習熟し,味方に付けた方が有利に競争を進めることができます。しかもルールをうまく使えば,改革の推進力に変えることも可能なのです。

 はたして,IFRSという“ルール”を会計基準として採用すると,企業はどのようなメリットが得られるのでしょうか。今回はIFRS採用のメリットについて考えてみたいと思います。

資金調達コストを低減,調達手法が多様化

 まず,経団連(日本経済団体連合会)が2008年10月に公表した意見書「会計基準の国際的な統一化へのわが国の対応」の一部を紹介します(原文はこちら)。この中で,IFRS採用の意義を以下のように説明しています。

 財務諸表の比較可能性向上によって投資家の利便性を向上させ,多国間における企業の資金調達のコストを低減させるのみならず,企業経営のツールの共通化によって,グローバルな経営の効率化にも資する。グローバルな事業展開を行うわが国企業の海外子会社ではIFRSの採用が増加しつつあり,世界のグループ会社で,統一的に理解可能な会計基準を整備することは,グループ全体の連結決算や経営管理を行う上でも,日本企業のグローバル展開の基盤整備につながる。

 ここではIFRSを採用することで,グローバル・ベースでの資金調達がしやすくなるというメリット,そして経営管理基盤を強化する推進力として有効活用できることを指摘しています。意見書の内容を踏まえつつ,IFRSのメリットを説明していきましょう。

 IFRS採用のメリットは大きく三つにまとめることができます。第1のメリットは,資金調達コストを低減するとともに,資金調達手法を多様化できることです。

 昨今,金融危機の影響で資本市場からの資金調達が難しくなっています。より多くの投資家に対して,自社の実態や優位性をいかに正確に伝えるか。これが財務戦略の巧拙,ひいては会社の浮沈を左右することにつながると言っても過言ではありません。

 IFRSを会計基準として採用していれば,世界中の投資家にとって比較可能性と理解度が高い財務報告を,より素早く,しかもより低コストで発信することが可能です。IFRSの採用を通じて,新たな投資家層の拡大と,世界中の資本市場を念頭においた資金調達手法の多様化も期待できます。