ISP Shared Addressは,IPv4アドレスの枯渇対策に使うことを想定したIPv4アドレスです。ラージ・スケールNAT(キャリア・グレードNAT),およびそれを実現するネットワーク・モデル「NAT444」を考案したのと同じメンバーがIETF(Internet Engineering Task Force)に提案しており,2009年4月現在標準化に関する議論が進められています。IETFのWebサイトで,インターネット・ドラフト文書を見られます。

 ISP Shared Addressは,プロバイダのネットワークで使われることを想定しています。具体的には,プロバイダのラージ・スケールNAT装置(キャリア・グレードNAT装置)からユーザー宅に置かれたCPE(customer premises equipment)に割り当てられます。

 このアドレスは,IPアドレスの割り振りを管理するIANA(Internet Assigned Numbers Authority)がまだ割り振っていない“未使用”のIPv4アドレスを使うことを想定しています。別のプロバイダ・ネットワークで同一のISP Shared Addressを使っても構いません。

 なぜこうした新しいIPアドレスが必要なのでしょうか。IPアドレスが枯渇しているからには,プロバイダのネットワークでもプライベート・アドレスを使い,これをユーザーのCPEに割り振るという考え方があっても不思議ではありません。

 プロバイダがプライベート・アドレスをCPEに割り当てた場合,そのIPアドレス空間がお客さん,つまりエンドユーザーやユーザー企業のLANで使うアドレス空間とバッティングすることがありえます。バッティングしてしまうと,CPEはどちらにルーティングしていいか分からなくなります。この場合,プロバイダのネットワークもしくはユーザーのネットワークのいずれかで,アドレスの振り直しが必要になります。

 「まだ割り振られておらず使われていないIPv4アドレスを,ISP Shared Addressにしたい」というのは,アドレスのバッティングを阻止するために出てきた考え方なのです。