日本の携帯電話市場は,端末出荷台数が大幅に減る中で,LTEという次世代システムの導入に向けて動き出す節目の時期を迎えている。実は世界の携帯電話市場も大きな変化の時期に直面している。2009年2月にスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2009」(以下MWC)は,その状況を如実に表していた。

 今年のMWCでは新技術の発表こそ少なかったものの,競争が激化する端末プラットフォーム分野や,LTEをはじめとした第3世代携帯電話(3G)の発展系である次世代システム導入の動向に注目すべき発表が相次いだ。

 ここ2~3年の間に出てきた新しい動きであるオープン化の進展と,LTEやHSPA Evolution(HSPA+)など通信技術の進化を現実のフェーズに移すには,どのようなビジネスモデルを考えればいいのか。まさに2009年は,こうした次世代ビジネスへの胎動期なのだ(図1)。

図1●2010年以降のビジネス・モデルをいかにして作るのか<br>次のビジネス・モデル構築に向けた端末プラットフォームのオープン化の進展と,通信技術の進化という大きな流れの中で,次のビジネスに向けたキーワードがいくつか見えてきた。
図1●2010年以降のビジネス・モデルをいかにして作るのか
次のビジネス・モデル構築に向けた端末プラットフォームのオープン化の進展と,通信技術の進化という大きな流れの中で,次のビジネスに向けたキーワードがいくつか見えてきた。
[画像のクリックで拡大表示]

世界同時不況の中で成長を目指す

 もっとも次の時代を模索する前に,昨年秋の“リーマン・ショック”に端を発した金融危機,そして世界同時不況という大きな課題にどう対処していくのか。業界のリーダーたちの意識は,まずそこに向かい始めた。

 消費材である携帯端末は,買い控えなど不況の影響を直接受ける。これまで右肩上がりで成長を続けてきた世界の端末市場も来年は減速が予想されている。既に欧州各国や一部のアジア地域では,携帯電話の普及率が100%近くに達しており,これ以上の成長を望むには新たなビジネスが必要との認識で一致していた。

写真1●スウェーデン エリクソンのカール-ヘンリック・スヴァンベリ代表取締役社長兼CEO
写真1●スウェーデン エリクソンのカール-ヘンリック・スヴァンベリ代表取締役社長兼CEO

 一方で,携帯電話事業者自身や,基地局などの設備を開発・製造する通信機器ベンダーは,端末ベンダーに比べれば世界同時不況の影響がすぐには現れていない。

 各国の携帯電話事業者に通信機器を納入しているスウェーデン エリクソンのカール-ヘンリック・スヴァンベリ代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者,写真1)は,「2008年の売上高は前年比11%増と成長を続けている」と厳しい環境下でも,健全な経営をしてきたことをアピール。ただしこれから先の見通しについては,「消費者や事業者の今後の動きを正確に予測するのは困難」との見方を示した。実際,将来の消費者動向などに対する不安は,各国の携帯電話事業者の次世代の通信方式選びにも影響を与え始めている。

写真2●GSMAのロブ・コンウェイCEO
写真2●GSMAのロブ・コンウェイCEO

 MWCのキーノート・セッションに立った大手通信事業者のトップである英ボーダフォンのビットリオ・コラオCEOや,スペイン テレフォニカのセサール・アリエルタCEOらは,「経済を復活させるには通信の発展が不可欠」と発言。投資抑制に向かわぬようにアピールした。

 MWCを主催するGSMA(GSM Association)をまとめるロブ・コンウェイCEO(写真2)も,「経済成長につながる通信分野の進化を止めてはならない」と宣言。「LTEの導入周波数帯は世界各国で(同じ帯域を使えるように)もっと協調することが必要。テレビ放送のデジタル化によって空く700MHz帯の周波数帯をLTE用に割り当てるべき」(同)であると訴え,社会基盤となるモバイル・インフラに対する各国政府の理解を求めた。