IPアドレス枯渇対策技術として,「キャリア・グレードNAT」(CGN)の存在が知られるようになってきました。さらに最近は,同様の話題の中で「ラージ・スケールNAT」(LSN)という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。LSNとはどんなしくみのことで,CGNとはどう違うのでしょうか?

 実は,LSNはCGNと同じしくみを指しています。いずれも,IPv4アドレス枯渇の対策としてプロバイダなどが実施する大規模なNATのことです。両者は,「CGNの呼称がLSNに変わった」という関係にあります。

 現在,IETF(Internet Engineering Task Force)に,日本の複数の通信事業者で構成するグループがLSNに関する提案を三つ出しています。(1)「Common Functions of Large Scale NAT(LSN)」,(2)「NAT444 with ISP Shared Address」,(3)「ISP Shared Address」です。いずれも標準化に関して議論している最中で,IETFのサイトで「インターネット・ドラフト」段階の文書を見ることができます。つまり2009年4月現在,LSNはまだインターネットの標準技術ではありません。

 「Common Functions of Large Scale NAT(LSN)」は,2008年11月に開催されたIETFの会合で提案されました。これは,2008年7月にIETFに提出したCGNの提案を整理して出したものです。11月のIETF会合では,CGNをLSNに名称変更することがアナウンスされています。この「Common Functions of Large Scale NAT(LSN)」は,セッション管理など,大規模NATの役割と機能を広義に定義しています。

 残る二つの提案のうち「NAT444 with ISP Shared Address」は,LSNを実施するネットワーク構成に関する提案です。そして「ISP Shared Address」は,枯渇対策用に使うIPv4アドレスに関する提案です。NAT444についてはQ8(近日公開),ISP Shared AddressについてはQ9(近日公開)をご覧ください。

 LSNはIPv4アドレスの“延命策”として提案されたものではありません。IPv4から次世代のIPv6への移行期に使われる過渡期のソリューションです。IPv4アドレスは2011年ころ枯渇すると見られており,枯渇後はIPv4アドレスを新たに割り当てられなくなります。しかしアドレス枯渇後もIPv4アドレスを使うインターネットが残ることはほぼ確実で,その際にIPv4アドレスを割り当ててもらえなかった人々に対する何らかのアプローチが必要になります。そのアプローチがLSNというわけです。