新しい管理プロセスを導入しようとしたら,順守しない人が多くいることに愕然とした経験はないだろうか。管理プロセスの導入・定着化に限らず,人は新しいルールを導入されると拒絶する傾向がある。そもそも人は自分自身が納得していない変化や,一方的に押しつけられた変化を好まない。それでは,どのようにルールを導入していけばよいか。PMOの視点から考察してみたい。

渡部 孝一
マネジメントソリューションズ マネージャー


 「新しく導入した管理プロセスが使用されていない」「メンバーがルールを守らない」――。プロジェクトではよくある光景です。新しい管理プロセスやルールを策定した際に,よく起こる現象は以下の通りです。

(1)課題管理プロセスを導入した
(2)しかし,ルールを順守しない人が多い(定着しない)
(3)課題管理票の記載レベルは低いまま。課題も備忘録もリスクも,ごちゃごちゃになっている。その結果,意思決定に利用できない
(4)記載レベルを上げるために,異なる方法でアプローチする

 大抵は(1)~(4)の繰り返しになります。一見,PDCAサイクルを回しているようにも見えますが,プロセスそのものが複雑化し,悪循環を招くだけです。どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。

「いいものは使用される」という誤解

 これは,「いいもの(=品質の高い管理プロセス)は使用されるだろう」という一種の「誤解」から生まれます。ルール策定者はルールそのものの品質にばかり関心を向けがちです。その前に,以下の2点を確認してみるとよいでしょう。

(a)メンバーは管理プロセスやルールの存在を知っているか
(b)メンバーは管理プロセスやルールを理解しているか

 プロジェクトマネジャやPMOは,まず,どのようにしたらメンバーに新しい管理プロセスやルールの存在を知ってもらえるかを考えるべきです。そのうえで,どのようにしたらメンバーに理解してもらうかを検討しなければなりません。

 上記(a)(b)の確認をせずに,管理プロセスが定着しない原因を「手法」や「メンバーのレベル」に求めるのはナンセンスです。定着しない原因を手法に求めているうちは,どんな手法も定着しません。なぜなら定着しない原因の根底には,上記(a)(b)に加えて「人の気持ち」があることが多いからです。

納得できなければメンバーは動かない

 新しい管理プロセスの導入は,管理される側にとって少なからず負担の大きなものです。例えば進捗会議で,「管理プロセスを策定したので,次回からお願いします」と突然説明しても,メンバー側としては押し付けられていると思ってしまうでしょう。

 そういった,メンバーにしてみたら「無意味とも思えるような工数の増大」を強いているのですから,それなりのメリットや必要性,導入後はどのように変わるのかをきちんと踏まえたうえで,綿密なコミュニケーション計画を立てる必要があります。具体的には,以下のアプローチをとることが多いと思います。

管理プロセスの策定 → 説明会の実施 → 導入 → 定着化モニタリング

 ただし,このアプローチでは,現場の気持ちや思い,現場の事情を知る機会がないため,反発が起こる可能性があります。上記のアプローチに加えて,管理プロセスの策定後に,現場との入念なコミュニケーションが重要です。管理プロセスの導入を告知し,それに対して意見交換をする段取りを踏む必要があります。

管理プロセスの策定 → 現場とのコミュニケーション → 説明会の実施 → 導入 → 定着化モニタリング

 特に「管理プロセスの策定 → 現場とのコミュニケーション」の部分は入念に行うことが必要です。

 一連のコミュニケーション活動では,「どのようなメリットがあるのか」などを強調するだけでなく,結果として「そのルールを導入すると,どのようなことが実現できるのか」を明確にし,その価値をメンバー自身に「納得」してもらうことが重要です。メンバーが納得しなければ,理解は促進されません。そもそも人は自分自身が納得していない変化や,一方的に押しつけられた変化を好みません。突然,ルールが変わるとなると,誰もが不安になります。

自分の仕事が増えるのではないか?
自分の知識や技術が役に立たなくなるのでは?
新しいことを覚えるのは面倒だな…
何がいつ,どう変わるのか全く分からない
自分にとって何のメリットがあるのか?

 PMOは上記のようなメンバーの気持ちを理解したうえで,丁寧な導入・定着化を推進していく必要があります。大規模なプロジェクトの場合には,プロジェクトマネジャのみでは,現場の声や不安をすべて把握するのは困難です。そんなときは,PMOが率先して現場とコミュニケーションを取り,現場が抱える疑問点や不安を払しょくすることが肝要です。


渡部 孝一(わたべ こういち)
 大学卒業後,ニッセイ情報テクノロジーに入社。ERP導入プロジェクトをはじめ,各種プロジェクトにおいて,業務コンサルティングから導入後のユーザー・サポートまで幅広く経験。2008年,マネジメントソリューションズに入社。「知恵作りのマネジメント」を支援するPMOソリューションの開発や各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先はinfo@mgmtsol.co.jp