今回は、我々にとっても身近で日常的なサービスの改善に焦点を当てる。セブン-イレブン・ジャパンは、IT(情報活用)活用の基本コンセプトである「業務の省力化と効率化、情報化の同時実現」を方針に掲げ、日常業務の徹底的な効率化と簡素化を図り、併せて情報収集の自動化と情報価値の向上、情報活用の容易化を推進してきた。

 図は、左側の縦軸に品ぞろえ評価から月次会計に至る一般的な業務の流れを示している。製造業であれば、この流れに生産を加えればよい。重要なことは、業務は必ず物と金と情報の流れを伴うことであり、物のステータスが変わる業務、つまり、仕入れとか販売といった業務を、どれだけ簡単に、しかも間違いなく組み立てられるかがポイントになる。セブン-イレブンは仕入れ検品や販売・サービス、廃棄・返品・値下げ、在庫変更・棚卸をすべてバーコードスキャンで実現した。

図●身近な小売店業務でのITによるプロセス革新
図●身近な小売店業務でのITによるプロセス革新
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 仕入れ検品を例に挙げると、店舗の発注データをホストコンピュータで伝票データにし、配送便ごとにグルーピングして、店舗のスキャナーターミナルに送り戻す。このデータを実際に納品された該当商品の検品スキャン時に画面表示して、発注数と実納品数を確認する仕組みになっている。

 午前中に1リットルの牛乳のバーコードをスキャンすれば、システムは瞬時にチルド配送の1便の検品を開始したと理解し、問屋コードや伝票番号、同じ便で納品される商品の明細もa同時に認識する。検品する人は商品名も問屋コードも意識する必要がなく、画面表示された発注数と実納品数に違いがあった場合だけ、実納品数を入力する。検品終了ボタンを押した時、未検品の商品があれば、システムからアラートが出るなど作業が簡単でミスが起きにくい仕組みを整えている。

 こうした作業精度の高さから、スキャン検品データそのものを仕入れ計上データとして処理でき、翌朝問屋にも検品データを配信して売り掛け管理システムに連動させている。こうなると仕入れ伝票も不要になり、伝票情報はウェブシステムを使って店舗、本部、取引先で常時参照可能な仕組みにすることで、電子帳簿保存法にも対応している。

 これらの仕組みのおかげで、配送ドライバーは納品後すぐに次店に移動し、検品は店舗のみで実施する方式に切り替えられた。ドライバーと店員の立ち合い検品を廃止し、加工食品や雑貨の物流費を6分の1削減でき、しかも検品ミスが多い店舗もデータ管理されてチェックやけん制ができる。

 同様に販売データや在庫変更データもバーコードスキャンされ、リアルタイムで店舗のストアコンピュータに取り込まれ、会計業務の自動化とリアルタイムの在庫更新ができる。この仕組みで図に示すような詳細なデータベースが自動生成され、情報価値の向上や活用の容易化が図られた。

 ワークフロー化で図の赤枠の省力化の部分と緑枠の情報化の部分が連動し、効率性と効果性の双方が同時に高められている。サービスイノベーションの基盤整備を考えた時、こうした基本モデルをより一層定着させていくことが重要である。

 スキャン検品や会計の自動化、伝票レスでの年間コスト削減額は、1万店規模の概算で店舗の省力化効果で約50億円、物流費の削減効果(加工食品と雑貨の立ち合い検品の廃止分のみ)で約100億円、本部会計業務の省力化で約50億円になる。合計で年間200億円のコスト削減は、同規模チェーンの年間のシステム費用そのものに匹敵する。

 セブン-イレブンの場合、仕入れ伝票の廃止効果だけでも、用紙代やプリント代で年間3億円、事務処理・伝票保管で年間11億円程度になる。中堅規模以上の小売業で仕入れ伝票の廃止が実現すれば、業界で年間250億~300億円のコスト削減が見込まれる。こうした身近な業務の中に省力化と情報化を同時に実現するイノベーションが隠れていることに、もっと注目すべきであろう。

碓井 誠(うすい まこと)氏
フューチャーアーキテクト 副社長
フューチャーアーキテクト 副社長 碓井 誠氏  1978年10月 セブン-イレブン・ジャパン入社。96年5月 取締役情報システム部長。2000年5月常務取締役情報システム本部長。2004年1月 フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)入社。3月取締役副社長に就任(現職)。2008年9月 独立行政法人産業技術総合研究所、研究顧問(サービス工学研究センター)に就任(兼務)