ITエンジニアにとって,「プロマジェクト・マネージャ(プロマネ)」は,魅力的な職種なのだろうか。プロマネは,システム開発プロジェクトにかかわる人・モノ・金を動かし,プロジェクトを成功に導く重要な仕事だ。さまざまなIT職種の中で,「花形」といえる職種…のはずである。

 最近,スミセイ情報システムの小浜耕己氏(PMO部 統括マネージャー)と,プロマネの仕事について議論する機会があった。小浜氏は,筆者が所属する日経SYSTEMSでのプロマネ連載の著者である。この連載とは別に,プロマネの初心者,あるいはこれからプロマネを目指す人に向けた記事企画を相談していたとき,「そもそも若いITエンジニアは,プロマネになりたいのか」という話になった。

 実は小浜氏の会社では最近,「プロマネになりたくないという若手が増えているのではないか」という問題意識が高まっているという。実際に若手プロマネを集め,プロマネという職種についてブレーン・ストーミングによる議論もしたと小浜氏は話す。

 この話を聞いてから,取材でITエンジニアにお会いするたび,若手エンジニアの「プロマネなりたい度」について尋ねるようにしてみた。「最近の若手ITエンジニアは,プロマネになりたくないのか」という問いに,やはり何人かが「確かにその通り」と同意した。

人気が続くプロマネ資格

 小浜氏の会社でのブレーン・ストーミングの結果は後述するとして,プロマネという職種が,ITベンダーやユーザー企業の情報システム部門にとって,重要であることは間違いない。そのことは,プロマネに関連する資格の人気ぶりからうかがえる。

 例えば,国際的なプロマネ資格であるPMP(プロジェクトマネジメントプロフェッショナル)の資格取得者数は急増している。プロジェクトマネジメント協会(PMI)日本支部によると,10年前の1999年時点では726人に過ぎなかった国内のPMP取得者数は,2008年4月末時点でおよそ30倍の2万3132人。今年1月時点で既に2万5000人を突破しているという。

 日経ソリューションビジネスの毎年恒例の資格特集「2009年版 いる資格,いらない資格(2008年11月15日号)」では,ITベンダーの人事担当者などに対して調査を実施。技術職に取らせたい資格として,7年連続で「情報処理技術者試験 プロジェクトマネージャ」が首位を獲得した。

 これらのデータからは,プロマネの資格に価値があることは分かる。ただし,若手ITエンジニア自身が,プロマネになりたがっているかどうかとなると,話は別である。

嫌いなのではなく,知らないだけ

 若手ITエンジニアがプロマネをやりたがらないとすると,それはなぜなのか。その理由を単純に考えれば,「魅力的な仕事ではないから」ということになるだろうか。

 よく言われるのは「プロマネの仕事はつらい」というもの。責任の大きさは並大抵ではなく,プロジェクトが火を噴いて失敗すれば,真っ先に槍玉に挙げられるのは,プロマネである。

 「プロマネの仕事は,ただの何でも屋だから」と揶揄する向きもある。プロジェクト関係者間で対立する利害を調整したり,プロジェクトが逼迫したときに人材や予算を融通したり,という仕事は,悪く言えば「何でも屋」なのかもしれない。また,誰よりも早くプロジェクト・ルームに来て,誰よりも遅く帰るプロマネを見ているプロジェクト・メンバーは,肉体的にも相当ハードな仕事だと感じるに違いない。

 ただし,筆者がここで言いたいのは「プロマネの仕事が大変だから,やりたがらない若手が増えている」ということではない。問題なのは,プロマネの悪いイメージが先行してしまっていることではないか,と考えている。冒頭で紹介した小浜氏の会社での議論の結果が,それを物語っている。

 小浜氏によると,ブレーン・ストーミングで浮き彫りになったのは,「若手ITエンジニアは,プロマネの仕事についてあまりよく知らない」という事実である。

 議論では若手エンジニアから「上司や先輩から『プロマネをやってよかった』という声をあまり聞かない」「プロマネの実態や面白さをあまり知らない」という声が数多く上がったという。もちろん,「プロマネの仕事が大変だから」という意見も出たが,そうした意見が出るのも,プロマネの実態が正しく伝わっていないことが,大きな要因の一つだろう。

経験や思いを共有する

 これには,ベテラン世代の側にも責任がありそうだ。小浜氏らの議論では,マネージャ・クラスの参加者から,「上司,先輩からプロマネについてのポジティブな話ができていない」「プロマネとはこんなに面白い,やりがいがある,という素晴らしさを伝えられていない」といった声が出ていたという。

 確かに自分を振り返っても,仕事のつらさや難しさは,お酒の席などで何度も愚痴った覚えがあるが,仕事の楽しさ,面白さを後輩たちにちゃんと伝えることはほとんどしてこなかったように思う。そういう場は,自分で意識して作る努力が必要だとも思う。

 小浜氏は「『こんなに面白い仕事はない。なぜみんなやりたくないのか分からない』という人がいるのに,それが伝わっていない。プロマネの役割や実態,経験談,思いなどを世代間,所属間で共有する機会がもっとあっていい」と話す。

 世は100年に一度の不況期である。システム開発プロジェクトには,コスト削減の大波が押し寄せているだろう。その中で,品質を確保し納期を守る使命を持つプロマネの仕事が,厳しさを増しているのは容易に想像できる。しかしそれは半面,プロマネの仕事の重要性,やりがいが高まっているということでもある。若手ITエンジニアのみなさんには,厳しいからと敬遠せず,プロマネの仕事の楽しさ,面白さを知って,乗り切っていってもらいたい。

 日経SYSTEMSでは4月24日に,書籍「図解で磨く プロマネ技術」の出版を記念したセミナー「図解と演習で磨く!プロマネ技術」(詳細・登録サイトはこちら )を開催する。スミセイ情報システムの小浜氏が,プロマネが身につけるべき実践的なスキルやノウハウを丸1日かけてお届けする。

 小浜氏が数々のプロジェクト現場で経験した知見を基に解説するこのセミナーでは,プロマネ初心者はもちろん,ベテランのプロマネのみなさんにとっても,現場で役立つヒントがきっと見つかるはずだ。そして,プロマネの仕事の楽しさ,面白さを知りたいというITエンジニアのみなさんにも,ぜひこのセミナーを活用してほしい。